「観るたびに味わいの増すウェス&ダールのとびきりの表現世界」ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
観るたびに味わいの増すウェス&ダールのとびきりの表現世界
ウェス・アンダーソンと言えば、初期作「天才マックスの世界」にすらダールの語り口の影響が濃く及んでいることで知られる。今回の奇想天外な40分足らずの新作中編を観て改めて驚いたのは、ダールの原作内の言葉がいつになく忠実にいかされていること。それに息つく暇なく早口で間断なく語りが続くこと。すなわちウェスにとってダール作品のちょうどいい体感速度とは、まさにこのくらいなのだろう。正直言うと僕は字幕版を観て全然理解が追いつかず、もういちど吹替で見てやっと詳細を理解できた。だがそのおかげで「グランド・ブダベスト・ホテル」的な多重構造、「ダージリン急行」を思い起こさせるインド風味、ウェス作品特有の演劇舞台装置的な美術と動線、それに作品全体をそこはかとなく包む哀愁を味わうことができたように思う。何度も繰り返し味わえる、動く絵本。ダールの自宅敷地内にある名高き執筆小屋での執筆の様子が再現されているのも楽しい。
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