劇場公開日 2024年5月17日

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「大きなドラマ的起伏ではなく、日常的な描写の積み重ねで娘の行方を案じる両親の苦悩を描いた一作」ミッシング yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 大きなドラマ的起伏ではなく、日常的な描写の積み重ねで娘の行方を案じる両親の苦悩を描いた一作

2025年6月23日
PCから投稿

吉田恵輔監督の、特にオリジナル脚本作品は、登場人物に寄り添うような、でも少し引いて見ているような、微妙な距離感がありますが、本作はまさにそんな一作。

森下沙織里(石原さとみ)とその夫・豊(青木祟高)の一人娘、美羽(有田麗未)が行方不明となる、という事件が起きますが、本作が始まった時点で既に行方不明から数か月が経過。世間は事件を忘れかけ、森下夫妻は焦りと同時に心身ともに疲労を募らせていきます。

物語は特に沙織里の視点で、美羽の行方を探すあらゆる試みを描いていくのですが、失踪事件の謎解きというよりも、沙織里の心理描写、そして周囲の反応に描写の力点を置いています。

沙織里を演じる石原さとみの演技は巧い、というよりも迫真に満ちている、と表現する方が適切でしょう。疲弊し切っていながらも苛立ちを爆発させる場面は、同時に彼女の絶望感が伝わってくるだけに、苦しさを感じて思わず目を逸らしたくなってしまいます。

報道することに対する一抹の良心を持ちあわせるものの、視聴率を意識して演出を施したり題材の選別をせざるを得ないことに対する後ろめたさを感じている、記者・砂田(中村倫也)の苦悩する姿、あるいは思惑が見えにくい沙織里の弟・圭吾(森優作)が何を抱えていたのか。

これらの描写の積み重ねを経て至る結末は、必ずしも大きな満足感・達成感をもたらすものではないかも知れませんが、「生きて、何かの営みを続けていれば、それで救われる人が現れるかもしれない」という祈りとも確信ともつかないような吉田監督の想いが伝わるような気がしました。その意味で、結末近くで豊が沙織里にかけた言葉がとても印象的でした!

yui
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