「どんなに深い悲しみに打ちひしがれても、人には、前を向いて生きていく力がある」ミッシング tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
どんなに深い悲しみに打ちひしがれても、人には、前を向いて生きていく力がある
何と言っても、子供が失踪したことで正気を失い、常軌を逸して行く、石原さとみの鬼気迫る演技に圧倒される。
その喪失感や深い悲しみだけでなく、自責の念や藁にもすがりたいという必死の思い、あるいは、誹謗中傷や心無い「いたずら」に対する憤りや絶望感が痛いほど伝わって来て、見ているだけで息苦しくなったし、何度も目頭が熱くなった。
冷静であり続けようとする夫が、感情的になりがちな妻を支えようとする姿にはグッとくるものがあるし、そんな中で生じる夫婦間の軋轢と「温度差」にも、絶妙なリアリティーが感じられた。
視聴率獲得のため、取材対象に寄り添う姿勢を貫けずに葛藤するテレビ局の報道記者や、いかにも胡散臭いながらも、後にその理由が明らかになり、彼なりのやり方で姉と和解する弟など、脇を固めるキャラクターたちも、皆、陰影に富んでいて魅力的である。
主要な登場人物ではないものの、母親のインタビューの最中に、彼女が、虎舞竜の「ロード」の歌詞と同じことを言っていると指摘してしまうカメラマンも印象的で、自分も、母親の苦しみを「他人事」としか思っておらず、同じような「突っ込み」を入れてしまうかもしれないと、我が身を振り返ってドキリとさせられた。
失踪事件そのものが解決しない結末には、ドラマとして、釈然としないものを感じないでもないが、下手に子供が帰ってきたりしたら、それこそ、嘘くさくて薄っぺらい話になってしまっただろうし、現実世界で同じような目に遭って苦しんでいる親御さんたちに寄り添うという意味でも、これで良かったのだと思う。
何よりも、決して癒えることのない悲しみに打ちひしがれたとしても、人間には、それを乗り越え、前を向いて生きて行く力があるということを信じさせてくれるラストからは、確かな希望を感じ取ることができるし、壁のいたずら書きに色鮮やかな光が反射するシーンでは、その美しさと温かさに、涙をこらえることができなかった。