「ミッシング、失われたつながり」ミッシング レントさんの映画レビュー(感想・評価)
ミッシング、失われたつながり
行方不明の娘を探す夫婦の姿を通して、報道とSNSの相互作用が生み出す現代社会の問題を浮き彫りにした衝撃の人間ドラマ。
藁にもすがる思いでテレビの取材を受け続け、SNSにホームページを開設したり、ビラ配りをしたりと何とかして娘の手掛かりを見つけたい沙織里たち夫婦。しかし得られる情報は不確かなものだったリ、冷やかしだったり、挙句には悪質ないたずらだったりする。
その上、テレビ報道がきっかけで沙織里の育児放棄が原因などとネットリンチを受けるまでに。
目撃情報を得るためにネットの書き込みを見続けた沙織里。被害者である自分たちがなぜここまで攻撃されなければならないのか。いつしか知らず知らずのうちに誹謗中傷の書き込みを探すために見続けていることにも気づかず彼女は泥沼にはまってしまう。
まるで世間全体が自分たちの敵になってしまったかのように感じる。娘を取り戻したいだけなのになぜ世間は自分たちに牙をむけるのか、いつからこの世は腐ってしまったのか、そんな疑心暗鬼にさいなまれてゆく。
テレビ取材も好奇心で行われていると思いながらも、頼みの綱である報道を利用しないわけにはいかない。いつしか悲劇のヒロインを演じている自分に沙織里は自己嫌悪に陥る。
またネットの心無い誹謗中傷を受け続けた彼女の心は蝕まれてゆき、自身が弟に対して酷いメールを送ってしまう。面と向かって口ではとても言えないような言葉を投げつけてしまう。それこそが彼女がSNSで受け続けた誹謗中傷と同じものだった。ネットを通して自分自身が毒されてしまったかのようだ。
マスコミとSNSに翻弄され続けた夫婦。それから二年の月日が流れて世間では事件のことはすっかり忘れ去られていた。そのおかげでネットでの書き込みも収まっていたが、いまだ娘は返ってこない。二人は今もビラを配り続けていた。それはもはや惰性で行われているだけかのように。
その時、以前同じく行方不明になり無事保護された少女の母親が声をかけてくる。自分にも協力させてほしいと。仕事先の若い女性も妊娠して協力したいと申し出る。
失われたと思っていた社会とのつながりはけして失われてはいなかった。自分たちを取り巻く社会はけして自分たちを見捨ててはいなかった。
SNSを通して敵だと思っていた社会はけして敵ではなかったのだ。社会とのつながりを感じた二人に暖かい光がそっと肌を撫でる。それは虹色の光。
娘と同い年くらいの少女が沙織里に微笑みかける。傷ついた彼女の心はいま、暖かい光に包まれて癒されつつあった。
SNS上でいまだ繰り返される誹謗中傷。何人もの犠牲者を出しながら一向に改善される気配はなく法規制がされつつある。
ネットにより皆が自己主張をしやすくなった現代では不確かな情報をもとに憶測で己の正義感を振りかざして相手を攻撃してしまうようなことが起きている。
前にキャンプ場で行方不明になった子供の親に対する酷いネットリンチが起きた時、書かれた記事を思いだした。その記事には今起きているネットによるバッシングは報道とSNSの相互作用によって生み出されているのだという。
ネットによる誹謗中傷は報道による情報がもとにしてなされる。事実を報道するのが報道の役目だ。しかし何でもかんでも事実だから公開してしまっていいものだろうか。公開するタイミングや公開することによる影響も考慮する必要があるのではないか。公開することによるメリット、デメリット、それぞれ天秤にかける必要があるのではないか。
また報道しぱなっしも許されないであろう。自分たちが流した情報が社会にどれだけの影響を及ぼしたのか。誤報は当然だが、社会に誤解や偏見、いらぬ憶測を与えかねないような報道は改められるべきであるし、それら憶測によってネットリンチが起きてしまっている実態がある。
誹謗中傷が絶えないのは個々の正義感からくるものだろうが、それがいつしかネットリンチに発展してゆく。悪いものは徹底的に懲らしめるべきだ。政治家のスキャンダルをものにしたディレクターは得意げに語る。自分が正義の鉄槌を加えたかのように満足感に浸る。この感覚はいまやネットユーザーに共有されている。
それらが憶測やら偏見だけで書き込みをする。一つ一つはたわいもない書き込みであってもそれらが蓄積されれば受け取る人間にとっては大きな津波に見舞われたかのような被害を被る。
そのようなネットリンチを生まないためには憶測や偏見を生じさせないよう正確な情報発信を報道機関は心掛ける必要があるし、ユーザー自身も軽はずみな書き込みをしないようネットリテラシーが要求される。
さすがの吉田作品だけあって重厚な人間ドラマだった。主演をつとめた石原さとみはかわいらしさが売りの女優さんだと思っていたが、年齢を重ねて演技派女優へと見事に脱皮した。とにかく彼女の演技には終始圧倒された。