「この自己犠牲の美談を素直に賞賛したい」コヴェナント 約束の救出 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
この自己犠牲の美談を素直に賞賛したい
感動の実話をベースにかなり脚色したであろうけれど、タリバンは許容出来ず、さりとて米国に協力と言うよりビザが欲しいがための通訳を引き受け、挙句タリバンに追われる身となったアフガニスタン人の地獄の境地と彼を救うべく現地に戻った米兵を描く。
当然のことながら本作の中では、米国=善、タリバン=悪、として描く。この点を以って米国のご都合主義を揶揄することは容易いかも知れませんが、そんなことは当たり前でしょ。ウクライナに侵攻したロシアとて自らは正しい事を行っていると思い込んでいるのだから。逆にウクライナは当然に自らのみが正義と確信しているはず。日本だってアジア諸国に欧米からの解放なんて欺瞞を掲げ、さんざの侵略を行い迷惑かけたのに、今では既に金で解決した事、過去の事は蓋をして未来志向で行きましょう、と都合のいい方便振り回す始末。あれもこれも戦争なんてそんなものですから。
9.11を経てアフガニスタン駐留の米国が遂に、目的も霧散し撤退を決めた。途端に米軍に封じ込まれていたタリバンが早々に政権を掌握し粛清が始まった。本作のエンドタイトルに、米軍に協力した通訳など3000人もが今もタリバンの恐怖におののいている、とテロップが出る。逆に言えば本作で描く内容はごく稀有な例であると、正直に謳ってもいる。3000人全員を救出しなければ善とは言えず、と騒ぎ立てるのは簡単ですが、米国なんかに行きたくない人も相当数いるでしょう。ほんの一例かも知れませんが、実話ですし、この自己犠牲の美談を素直に賞賛して何が悪いのでしょうか。
軟派のイメージ強いガイ・リッチー監督がイギリス人であるにも関わらず突然に硬派に転向か? どっちにしたって命の恩人を放っておけない人間の本質にこそ興味が湧いたのでしょう。お仲間のマシュー・ボーン監督が相変わらず軟派の「アーガイル」2024年でほぼ自爆してしまったのとは対照的です。演ずる役のふり幅大きいジェイク・ギレンホールは「エンド・オブ・ウォッチ」2012年や「アンビュランス」2022年などの極限リアルをここでも好演。ブルーの瞳が乾ききった茶色の世界に実に相応しい。もう一人の主役であるアーメッド役のダール・サリムは知的で落ち着いた雰囲気で、ところがいざとなった時の動きが素晴らしく、儲け役かも知れません。調べたら結構な出演歴で、どこかの作品で既に観ていたのですね。
現地人の通訳が戦地の爆撃で死んでしまい、その補充に選ばれたアーメッド。通訳は的確なれど態度が少々不遜と聞かされせていたけれど、言葉以上に空気を読みジョン曹長を随所で助ける。いよいよのタリバンの武器庫を発見するまでは、数多の中東もので観たようなシーンの連続で少々画面が緩む。けれど、その場での激戦以降の脱出シーンから俄然描写に力が漲り、以降ラストまで一直線の素晴らしさ。ドローンを多用し従来にない視点からの映像が興味を途切れさせない。
当然にアフガニスタンでの撮影であるハズもなく、中東と言えば多くの撮影が行われるモロッコでもない。調べたらなんとほぼ全編スペインだとのこと。目立つ車を敢えて避け、手押し荷車での山登りの壮絶は、単にビザ欲しさ以上に任務を遂行すべく忠誠でここまで人は動けるのだと、本作の白眉シーンでもある。逆に埃の一切ないロサンゼルスにおいてすら、心の安らぎを妨げる自責が辛い。その辺を女房もよく分かっているようで、夫のケジメを応援する太っ腹に感動です。
こうしてアフガンに舞い戻り、私財を投げ打って雇った傭兵の助けを借り、二転三転後に遂に出会った2人のシーンには鳥肌が立ちました。タリバンの気配の中で、再会に抱き合うなんてありえなく、少し離れて何気なく言葉を交わす見事なシーンです。傭兵のリーダーも後になって「あのヒーローがお前たちと分かっていれば金なんて要らなかったよ」と、人情の世界に緊張も緩みます。ただ、ダムのシーンで、数人の命を救う為に、遥かに多数のタリバンの命を空襲する現実には心も痛みます。当たり前ですが戦争=殺し合いなんですから。
例によってエンドクレジットに実際の関係者達の写真が映される。まだまだ最近のことゆえ、一部は顔を目を隠しての生々しさ。なによりダール・サリムはイラク
のバクダッドの出身とのこと。軽々しく中東問題に触れられないとも感じます。