「エンタメ要素を強くした方が良かったかな」コヴェナント 約束の救出 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
エンタメ要素を強くした方が良かったかな
アメリカが行ったアフガニスタンにおけるタリバンとの闘いを舞台に、アメリカ軍のキンリー曹長と、現地で雇われた通訳のアーメッドとの”絆”を描いた作品でした。イギリス人のガイ・リッチーが監督を務めていたものの、内容が内容なのでてっきりアメリカ映画かと思いきや、イギリスとスペインの合作ということでちょっと驚きました。まあ9.11以降20年に渡って続けられたアメリカによるアフガンへの報復攻撃には、アメリカだけでなくイギリスも連合軍の一員として参加していたので、英米の間柄にも太い太い”絆”があるのは確かなのですが。因みにスペインは、アフガンでは撮影出来ないので、撮影地に選ばれたようですね。
内容的には、「ブラックホーク・ダウン」とか「アメリカン・スナイパー」など、近年のアメリカの戦争物と軌を一にするものという印象でした。違いがあるとすれば、これら2作品がノンフィクションに寄せた作品だったのに対して、本作はフィクションに寄った作品だったことや、主人公のキンリーがアメリカ人だったけれども、その相棒のアーメッドはアフガニスタン人だったというところでしょうか。
ただ作品紹介によると、「アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーに着想を得て撮りあげた社会派ドラマ」とされており、現地でタリバン等と闘ったアメリカ軍は、実際現地の人を通訳として雇っていたのは本当のようです。そしてアフガニスタン人がアメリカ軍に雇われることは、タリバン側から見れば敵に寝返る行為になることから、2021年にアメリカ軍がアフガンから撤退した後に、数百人の通訳がタリバンによって殺害されたというテロップで本作は締めくくられていました。
逆に言えば、そうした高いリスクを冒してでもアメリカ軍に雇われるアフガニスタン人がいたのは、タリバンへの反発心も多分にあったでしょうが(本作のアーメッドは、子供をタリバンに殺されているという設定)、高額な金銭的報酬とともに、アメリカのビザも与えるという契約があったことが、その動機にあったものと思われるし、本作でもそのような描き方をされていました。
ストーリー的には前後半に分かれていて、前半部はアフガンに派遣されていたキンリーの部隊がタリバンの拠点を攻撃したものの、キンリーとアーメッド以外全滅してしまい、しかもキンリーは重傷を負ってしまうことに。そんなキンリーを、アーメッドはソリや大八車に載せて100キロ離れた米軍基地まで運びます。一部車を使えたところもありますが、車だとタリバンに見つかってしまう恐れがあるため、大部分を重症のキンリーを引っ張って徒歩で進みます。この辺りのシーンは、舞台が中東の荒野であるという共通項もあって、1月に観た「葬送のカーネーション」を想起させるものでした。まあ「葬送のカーネーション」で引き摺っていたのは棺桶だったけど。
こうして九死に一生を得たキンリーは帰国しますが、アーメッドは依然としてアメリカのビザを与えられずアフガンに留まらざるを得なくなり、タリバンから狙われる存在になってしまいます。そんなアーメッドを、今度はキンリーが助けるというのが後半のお話でした。
目分量で言うと、概ね3分の2くらいが戦闘シーンや逃亡シーンであり、息もつかせぬ展開が続いたのは、戦争物として中々良い出来栄えだったと感じました。ただちょっと疑問というか説明が足りないと感じたのは、米兵のキンリーの戦闘能力が高いのは当然として、アーメッドがキンリーと同等か、それ以上の戦闘能力を持っていたこと。特に戦闘訓練をしたという話もなかったのに、銃の扱いは手慣れたもので、相当程度離れた相手も的確に射撃していたり、崖を転げ落ちながらタリバンの追ってから逃れたり、接近戦でも刃物を使いこなして無類の強さを見せたりと、只者じゃない動きをしたアーメッドって、一体何者なのという疑問は最後まで残りました。
まあこの点は映画のご愛敬と言えなくもないのですが、もっと引っ掛かったのが本作に「社会派ドラマ」という表現が当てはまるのかということでした。結局予定調和な終わり方をしていた点は勿論、タリバンの描き方も一方的な悪者であり、何故彼らが叩かれても叩かれてもアメリカに対抗出来るのかと言った部分には触れられていませんでした。この辺は今現在行われているイスラエルとハマスの対立にも通じるところがありますが、タリバンやハマスの理屈にも触れてこその「社会派」だと感じたところです。
また、アフガンでの米軍を中心とする連合軍による民間人の被害にも触れられておらず、この辺りもいかがなものかと思いました。2020年12月8日付の英国BBCのニュースサイトが報じた「アフガン空爆の民間人死者、3年で4倍以上に=米研究」という記事によれば、「アメリカをはじめとする連合軍の空爆で死亡したアフガニスタンの民間人の数が、2016~2019年で330%増加していることが、アメリカの研究で明らかになった。米ブラウン大学の「戦争の代償」プロジェクトによると、2019年だけで空爆で約700人の民間人が殺された。」とのこと。ちょうど本作の設定が2018年ですから、この時期に連合軍の空爆により、毎年数百人の民間人が殺されていた訳です。
勿論本作はアメリカ兵とアフガニスタン人通訳との”絆”にスポットを当てた作品であり、その他の要素を限りなく捨象することが一概に否定される訳でもないとは思いますが、もう少し多面的な捉え方をした方が、「社会派」の名に相応しいのではないかなと思った次第です。まあガイ・リッチー監督が自ら「本作は社会派ドラマだ」と言った訳ではないので、制作者サイドの本音は別のところにあるのかも知れませんが、予定調和のエンタメ要素が強い戦争物を目指すなら、「トップガン」のように敵を特定することすらしない描き方の方が、スッキリと観られるように思いました。
ただ映画としての出来栄えは優秀で、迫力満点だったので、本作の評価は★3.5とします。
返信ありがとうございます😊失礼します😊
有料パンフ🈶はコラムがあるので ある程度 中立です。
でも 作品自身は 思い返すに フィクションですから コレでイイかもです。
敢えて 有料パンフ🈶必要かといえば 別に不要かもと思います。高いですし 作品とは別物なので・・_
イイねありがとうございます。おっしゃるとおり 相手側の視点が無いですね。戦争映画では大原則当たり前ですが
社会派 となると ある程度 相手の立場もと思います。ご覧になられたかもしれませんが
有料パンフ🈶では若干中和 と言うか中立視点になってました。