「英国ロンドン。 ドキュメンタリー監督のゾーイ(リリー・ジェームズ)...」きっと、それは愛じゃない りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
英国ロンドン。 ドキュメンタリー監督のゾーイ(リリー・ジェームズ)...
英国ロンドン。
ドキュメンタリー監督のゾーイ(リリー・ジェームズ)は母親(エマ・トンプソン)からの電話で起こされた。
結婚式に遅れそうなのだ。
結婚式は、ゾーイの実家の隣家で行われる。
隣家はパキスタンからの移民の一家。
長男のカズ(シャザト・ラティフ)とゾーイは幼馴染。
カズは今では若手医師としてバリバリに働いている。
結婚するのはカズの弟。
お相手は彼の古くからの知り合いだが、結婚の段取りをしたのはカズの両親だった。
いわゆる、お見合い結婚のようなもの。
ゾーイは「そんな、お見合い結婚なんて上手くいくのかしらん」と疑念を抱くが、新郎新婦の仲は良さそう。
30歳を過ぎたカズも両親からのお見合い結婚を勧められ、乗り気になっている。
いま企画している暗い内容のドキュメンタリーがポシャったゾーイは、代わりの企画としてカズのお見合い結婚のようすを撮ることにする・・・
といった内容で、あらすじだけ取り出すと、なんだかアホくさい、ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)に配慮した異人種間のラブコメのようなのだが、観てビックリの出来の良さ。
ゾーイの映画の被写体となるカズは教養もあるが伝統も重んじる。
両親の思いは尊重したいが、両親が勧めるお見合い結婚に進んで参加するのは、それだけではない。
いつか冷める愛よりも、徐々に温め合う愛の方が好ましいと思っているからで、それは理知的な態度でもある。
なにより、根が善人である。
そんな善人カズを通して、観客はゾーイとともにパキスタンの伝統や文化に触れていくのだが、ムスリムのパキスタンといえども、祖父母や両親世代と30代のカズ世代とは考え方も異なるし、カズのお見合い相手の20代のさらに若い世代とはさらにまた異なる。
それをいうなら、ゾーイと母親でも考え方は異なる。
十代のころに911事件に遭遇したゾーイやカズの世代は、母親世代よりもムスリムに対する偏見を強く感じている。
子どもの頃にフラワームーブメントの残滓に接した母親は、隣家とフレンドリーに付き合うが、ゾーイはそこまで馴れ馴れしく付き合えない。
偏見というのではなく、自己責任の「自立」からによるものなのだろうが。
ということで、英国人とパキスタン人という異文化のみならず、世代間の異文化をバランスよくミックスして、ポリコレの枠を超えての娯楽作品になっている。
で、これだけでも賞賛すべきなのだが、映画の話法に魔法が潜んでいて、映画終盤にそれまで意図して前面に登場していなかった人物を中心にして、映画をグググって引き締め、観る前に予想するゾーイとカズの恋の行方がオマケのように感じるほど。
傑作ラブコメです。