「誰が死ぬかを決めなければならない負荷」アウシュヴィッツの生還者 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
誰が死ぬかを決めなければならない負荷
ホロコーストものの作品であるが、本作品が他と比べて珍しいのは、内容の半分が「戦後」であるところだ。
アウシュビッツでの過酷な経験により、安全になったアメリカでの生き方に暗い影を落とす。
主人公ハフトは賭けボクシングで勝ち続けることで生き抜いた。それは対戦相手である同胞を殺して生き延びたともいえる。
ハフトに選択肢などなかった。自分が死ぬか相手を殺すかしかない中で、必死になっていただけだ。
このときのハフトは恋人に再び会いたいという想いだけで耐えたのではないか。
戦争が終わり振り返る。生きて恋人と再び会うとこの重要性が増す。なぜなら何人もの同胞の命の上にこの願いが立っているから。
ある意味でハフトが犯した罪は彼女との再会なくして清算されることはない。
ハフトの兄が、自分はお前のおかげで生き延びることができたとハフトを肯定するが、ハフトにとっては、兄の命だけではたりなかった。
ハフトの負の感情は息子との関係にも問題を生じさせる。
ハフトは良かれと思って自分の中に過去を閉じ込めるが、息子にとっては大きな壁があるようにみえたに違いない。
父親が苦しんでいる。だがその苦しみは分からない。分かり合えないままで親密な親子になるのは難しい。
ハフトの心の闇は、恋人が生きていたこと、そして息子に自分の過去を話したことで清算された。
何かが変わったわけでも、何かが赦されたわけでもない。しかしもうハフトの戦争は終わったのだ。
主演のベン・フォスターの演技が圧巻。現代ではCGかもしれないが、アウシュビッツ時代のやせ細った姿は別人のよう。
試合を重ね、おそらく食べ物を与えられているせいだろうが、体重が戻っていっている様子もこだわりを感じる。
監督のバリー・レビンソンを観るのも久しぶり。十年以上ぶり。まだ頑張って監督やってて嬉しい。