「虚実を行き来する絶妙の面白さ」ナチスに仕掛けたチェスゲーム 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
虚実を行き来する絶妙の面白さ
第2次世界大戦勃発前夜の1938年3月に起こったナチスドイツによるオーストリア併合を舞台にしたサスペンスでした。オーストリアのユダヤ系作家であるシュテファン・ツヴァイクの小説「チェスの話」を原作とするものだそうです。因みにツヴァイクは、「チェスの話」を書きあげた直後の1942年2月に、夫人とともに亡くなったそうで、本作は遺作ということになるようです。
映画の内容ですが、ナチスドイツにより徐々に独立を奪われつつあったオーストリアのシュシュニク首相が国民投票を実行しようとしたものの、ナチスにより妨害を受け、結果国民投票は実行されず、逆にオーストリアは併合されてしまいます。主人公のヨーゼフは、公証人としてオーストリア貴族の莫大な資産を管理していましたが、ナチスはその財産を分捕ろうと彼を高級ホテルに監禁。貴族たちの財産を引き出すための暗証番号を聞き出そうと尋問を続けます。
そんな流れでしたが、突然場面は船着き場に変わり、ニューヨーク行きの旅客船に乗船するヨーゼフ。どうやら釈放された模様ではあるものの、監禁体験のせいで心身に深い傷を負ったヨーゼフの様子は明らかにおかしい。そして船のシーンと監禁されていた当時のシーンが順繰りに映し出されて行きますが、乗船時に落ち合った妻は消えて居なくなってしまうという不可解な出来事も発生。
一体何が現実なのか夢なのか、観客としては「?」の連続で、どんどん物語に引き込まれて行きました。
題名にもなった「チェス」ですが、監禁中にヨーゼフがたまたまチェスの本を入手し、尋問される以外はやることがないのでそれを熟読した結果、チェスの腕を上げ、最終的に尋問官とチェスゲームの如く闘うというお話でした。この辺りの創りは非常に独創的で、なるほどこういうお話だったのかということが、最後まで観て初めて分かりました。
俳優陣ですが、主人公のヨーゼフを演じたオリバー・マスッチは、「帰ってきたヒトラー」でなんとヒトラー役を演じていたのだから、中々ウィットに富んだキャスティングでした。ゲシュタポの尋問官を演じたアルブレヒト・シュッフの冷静で意地悪い演技も良かったです。
そんな訳で、観る前はそんなに期待していなかったのですが、結果的には大満足の内容でしたので、評価も★4.5とします。