「新人あるある」アシスタント かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
新人あるある
新人あるある。
新人はやるせない。
ボスの横暴ぶりは酷い。権力を背景に、女性をとっかえひっかえ、オフィスの個室は夜は情事の場。好みの「女の子」がいればオフィスに呼び寄せ、形ばかりの仕事をあてがって高級ホテルに住まいを用意、給料も出るだろうから会社の経費で愛人を囲っているわけだ。
mee to運動に繋がる、職場の女性への直接的・間接的ハラスメント、周囲の対応も含めて、がテーマ、といえばそうかもだが、そこだけに注目する映画では無いように思いました。
組織のお偉いさんが権力を背景に横暴に振る舞うのは、性的なことでなくてもありがちで。彼らは自分はそうできるだけの権力を持っていると思っているから、外部から責められない限り改めることはほぼ、ないでしょう。
ボスが理不尽です、と面と向かって刃向かえますか?
組織内では無理、嫌なら辞めれば、となるでしょう。
権力者の悪行を止められるとすれば、外部からの圧力。
世間で「悪行」と認知されれば理不尽を止められるかも。
ジェーンがボスの悪行をコンプライアンス担当者に告発に行ったのは、新人女性アシスタントを心配したというより、彼女がボスの好み(させてくれそうだし)、というだけで自分が苦労して得たボジションにいとも簡単に滑り込み、そのうえ高級ホテルをあてがわれている不公平に対する不満からではないのか。
でもってそういう不満を訴えると、「女の妬み」とか言われがちでもある。
こんな不公平も含めてジェンダー・ハラスメントなのかもだが。
ジェーンは有能だと思う。仕事がひとつひとつ丁寧だし、運転手が見つからなければなんとかする調整力もある。
一流大学を卒業し、高倍率を勝ち抜いて獲得したポジションなのに、仕事はうんざりする雑用ばかり。オフィスのキッチンでは、彼女の存在をまるっと無視して会話する女性の先輩たちが、自分が使ったマグカップをそのまま置いていく。ジェーンはだまってそれを洗う。こんな屈辱的な目に日常的に(恐らく)あっても黙って仕事をする。忍耐強い。出しゃばらず、周囲を不快にするようなこともしない。日本企業に望まれる女性従業員みたい。
私の職場では新人は男女を問わず、このように雑用をしているので昨今は事情が変わりつつあるようですが。
世の中は厳しい。望むところに到達するためには越えなければいけない試練なら、超えるしか無い。
コンプライアンス窓口の担当者も同じ部屋の先輩も、事なかれ主義長いものに巻かれて臭いものにフタをする汚いオトナだが、ジェーンがキャリアを続けられるように厳しい社会の渡り方を、自分たちが知り得た範囲で実践的に教えているとも言える。
アシスタントの先輩二人で飛んできて理不尽な謝罪メールのテンプレを教えているのは、彼女がここで辞めたりしないための、彼らのできる限りの協力だ。
うんざりする環境で腐りそうな仕事を、自身のキャリアのために仏頂面だが黙々とこなしているジェーンに対する、周囲の温かい目が随所にある。恐らく彼女は気づいてないけど。
君は大丈夫、ボスのタイプじゃない。イコール彼女は実力が評価されるということ。
ムカつくけどこれは慰めと励ましの言葉です。
セクハラがあってもなくても、ここを超えなければ望むところに到達できないということが仕事ではよくある。
がんばれ新人。
ここに出てくる「ボス」が実はミラマックスの社長で、「恋するシェークスピア」や「シカゴ」「アーティスト」「英国王のスピーチ」をプロデュースしていたと考えると、とても複雑な気持ちになりました。
あの素晴らしい映画たちを作った人の実像が、(この映画を作るにあたって、彼の部下たちからだいぶ具体的な聞き取りをしたらしい)、実際はこのような行いをしていたとは。
私は実際に映画を見た後にこの事実を知ったのですが、事前に知識として知っておけば、また自分の感想も変わったろうな、と思った次第です。