「主人公の揺れ動く心情を読み取らせる作品」バカ塗りの娘 きらりさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公の揺れ動く心情を読み取らせる作品
津軽塗り職人を引継ぐお話と思って観に行ったら、心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられました。
淡々としたしみじみとしたお話と思っていたら、ちょっと辛いお話で、感情を飲み込まれないように観ました。
詰込み過ぎという感想も読みましたが、確かにいろんな人生のちょっとしたことなんたけど実際にはとても辛い事が次々と起きており主人公美也子、頑張ったなぁ…と思います。
●気になる点
でも、私はもっともっと美也子をいじめて欲しかった、と思います。
卵を落とした所ももっと店長に嫌な顔をされて欲しかったです。
学校の冬の水道水って本当に凍る冷たさで、指が真っ赤になってしもやけができるんです。
ストーブを、使っていても窓の沢山ある学校、ましてや夜は本当に寒いのです。
息が白くなるシーンあって欲しかったです。
なんとなく、全体にあんまり寒くなさそうで、寒くない時期に撮影したんだろうなと思いました。
何故美也子が風邪をひいたのか伝わらない感じでした。
兄が髪を切る所も唐突にカット終了で、多分上映時間2時間以内にする為に切れる所は切っていったのでしょうが、もっと美容にこだわる兄の描写が欲しかったです。なんなら繊細さを描いて欲しかったです。
●良かった点
でも、兄がパートナーを連れてきたときの衝撃は凄く伝わりました。というか、何もネタバレ無しだった知らなかった私はとてもビックリしました。
母の登場も嫌悪感がしっかり伝わりました。
昔の写真を見た時の、その写真の中の家族の偽りのない幸せも感じました。
なんだかんだあったけど大団円、とは思いません。
一個一個身を切り刻まれるようなでも世の中のみんなが耐えているような出来事を耐えて何事もなかったかのように平気な顔をして、前に進んでいる、
そういう風に思います。
●方言
私は昔一度仕事で青森に行った時、支店ではみんな標準語だったのに、飲みに行った先のスナックのママと話す支店の社員さんたちが、何喋っているのかわからないくらいの方言でビックリしました。
もっと方言が聞きたかったです。仕事関係?のおじいさんと施設の介護のおねえさんや王林さんの方言はとても方言らしかったのですが、職人さんはもっともっと方言を話すだろうに…と感じてちょっと違和感がありました。
●LGBT
鈴木さん(宮田俊哉)の描写は、美也子のほのかな思いを寄せる人だけあって、とても丁寧に描かれていました。結婚式場のシーンは、険しい表情に「ん?鈴木さんの元カノが結婚するの?」と勘違いしたのですが、結婚というものの在り方を考えていたのでしょうか。
鈴木さんが兄のパートナーであるLGBTの人とわかると、あ〜確かにLGBTらしさがあって、しかも色っぽく描くのではなく誠実なキャラクターで、後からそう言えば宮田さんは今までもそういう役を演じていた人だったと、腑に落ちました。
鈴木さんが学校に誘った理由があまり伝わらなかったのですが、兄の思い出を聴くシーンがもっとあると好きな人の昔の話も聞きたいし、家族として認めてもらいたいというなにかもっと鈴木と美也子の二人の新しい関係性を見たかったです。ちょっと描き足りないというか、だから、描き切っていないから詰込み過ぎと言われるのかなと思います。
ただただ、鈴木(宮田俊哉)が柵を飛び越えるのがかっこよかったし、美也子が体育館に入るのを手を差し伸べたりするところも、本当に無駄に女性が心を惹かれるようなキャラクターでした。
●全体として
美也子は口数が少なく美也子の周囲の出来事を通して美也子の心情を辿らせて乗り越えていく物語はとても成功したと思います。
あと30分長くして物語の行間をもっと埋めて、方言にこだわり、美也子をもっと苦しめる描写を描けば星5です。予算の限られた中で職人として生きようとする若い女性をしっかり描いてくれている良作だと思います。