奇妙なこと
解説
「イタリア映画祭2023」(2023年5月2日~5月7日=東京・有楽町朝日ホール/6月10、11日=大阪・ABCホール)上映作品。
2022年製作/103分/イタリア
原題または英題:La stranezza
「イタリア映画祭2023」(2023年5月2日~5月7日=東京・有楽町朝日ホール/6月10、11日=大阪・ABCホール)上映作品。
2022年製作/103分/イタリア
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2023年7月13日イタリア映画祭の特別上映で監督とその娘で脇役の女優とともに主演のピランデッロを演じたトニ・セルヴィッロが来日して、ティーチインの回は観客もびっしり。
シチリア出身のピランデッロが代表作「作者を探す6人の登場人物」の着想を故郷シチリアの素人劇団との出会いから得たという想像によるフィクションで、脚本がよくできている。劇中劇とその観衆がまた演劇的で笑える。
舞台回しの葬儀屋の二人を演じたのも、シチリアのスピリットを大事にする舞台俳優らしく、ドタバタもどこかユーモラスかつ「ピランデッロ的」で、不条理に満ちている。昔のアグリジェントとその近郊に似せたロケ地はトラーパニとエーリチェだったようだが、いずれも私が旅した街で、風景も楽しい。最後に映画を同じくシチリア出身の作家シャーシャに捧げているのも熱い。
セルヴイッロはQ&Aで、映画と演劇の関係について「寝室が違う夫婦」と答えるなど、どこまでも洒脱でカッコいい爺さんである。
芸術にプロも素人も居ない。「演じる」ことについては、登場人物も登場人物を作る人(監督だったり作者だったり)も混淆していて、あっち側とこっち側を自由にまたは否応なく動き回り立場が変わる。そして自分を客観視したり過去に戻ったり未来に行ったり幻想や妄想の中にうずくまる。そこから少し勇気を持って何かやってみる、もうちょっと生きていこうとする。この映画で生と死を否応なく突きつけられたが悲しくならなかった。
ハントケの戯曲「観客罵倒」という言葉がふと頭に浮かんだ。この芝居を見たのか記憶は曖昧。アンドーのこの映画では、ブラボーを叫ぶ観客もいれば恥知らず!と叫ぶ観客も居た。イタリアはお行儀がいいのか観客は罵倒されなかったように見えたが、いや、罵倒されていた、エレガントに。役者と観客の立場逆転の仕方がイタリアとドイツ語圏では異なるのか、とかなり興味深かった。
いつでもどこでも、似たような個性的な登場人物はいてそれは私かも知れない。私が死んでも「登場人物」として生きていた私は消えない。なぜなら今までだって死者は私の中に生きていて、彼ら彼女らが私に語ってくれたこと、話してくれたこと、どんな笑顔だったか、どんな考えをする人で何が好きな人だったか私は覚えている。頭の中で彼らと対話もしている。夢の中にも出てくる。そんな風に死者は私の中に生きている。だから私も誰かの中に生きて行くんだと思う。
おまけ
上映前挨拶と上映後質疑応答があると知らなかったのでとても嬉しかった!トニは初来日!生のトニを見ることができて生の声を聞くことができて本当に幸せ。トニの語彙は優しく甘やか。そして春は気持ちが安定しないことが多い中、トニの顔を見て声を聞けて本当に嬉しかった。ありがとう。