「今夏、宮崎アニメや洋邦話題作より面白かったなんて許されると思うか?」SAND LAND 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
今夏、宮崎アニメや洋邦話題作より面白かったなんて許されると思うか?
鳥山明と言ったらやはり『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』が有名。私もド世代。
この2作の他にも短期連載漫画も幾つか手掛けているのだが、これらの知名度はあまり…。『ドラゴンボール』とは雲泥の差。
本作の原作コミックもファンの間では“隠れた名作”と言われているが、恥ずかしながら何となくタイトルは聞いた事あるくらいで、読んだ事もなかった。
“原作・鳥山明”だし、一応見ておくか。そんな程度で見てみたら…!
水が枯渇し、砂漠と化した世界“サンドランド”。
水は国王が独占し、超高値で売られていた。
老保安官のラオは、水不足で困っている国中の人々を助けるべく、砂漠の何処かにあるという“泉”を探そうとする。
しかし、人間一人では不可能。そこでラオが助力を求めたのは…、魔物!
人間と魔物が協力するなんてとんでもない話。が、水不足で困っているのは魔物も同じ。
かくしてラオと、悪魔の王子・ベルゼブブ、お目付け役のシーフの泉探しの冒険が始まる…。
原作漫画読んでなくとも、開始10分程度で分かる話(冒険の目的)、世界観や設定、キャラ個性。
その分かり易さと捌き方は見事で、ポンポンポンとテンポ良く冒険が始まるのも見事で、その後の展開も飽きさせず退屈さとは一切無縁。
これぞ少年漫画! 鳥山明の世界=“トリヤマランド”!
まずはキャラの魅力から語って行こうか。
悪魔の王子、ベルゼブブ。
悪魔よりワルだなんて許されると思うか? ワル中のワル。昨日も悪い事してやったぜ。歯みがきしないで寝てやったぜ!
…え?
はっきり言って小生意気な子供って感じ。本人は悪ぶってるけど、意外やいい奴。人間に悪戯はするけど、殺しはしない。
悪魔なだけあって身体能力は人の比じゃない。メチャクチャ強いし、ジャンプ力もあるし、耳や目もいい。お陰で冒険がどれほど助かったか。
好奇心旺盛で、陽気な性格。悪魔ヒーローはまるで少年悟空…?
でも、パパサタンには頭が上がらない。(このパパサタン、『ドラゴンボール』のダーブラそっくり!)
そのベルゼブブに嫌々冒険に連れて来られたお目付け役のシーフ。老人風だが、歳はベルゼブブよりちょっと上くらい。ベルゼブブは2500歳で、シーフは3000歳くらい…?
性格はベルゼブブとは正反対。ネガティブ思考で心配性で、あれこれあれこれ口うるさい。ベルゼブブにいつも悩まされるが、盗みの腕は超一流。必要なものは揃える。物知りで助言役。冒険ではドライバーとしての才も開花…?
非人間の悪魔キャラだけじゃない。人間キャラも魅力。保安官のラオ。
真面目で正義感の強い。ベルゼブブらに対しても偏見は持たず、一定の礼儀を保つ。ベルゼブブの呼び方も“ベルゼ”から→シーフに注意されて“王子”→本人から“ベルゼ”と呼んでいいぜと。懐深く優しくもあり、ベルゼブブやシーフに運転させたり。
老体ではあるが、身体能力や銃の扱いは人並み以上。ベルゼブブ曰く、今まで見てきた人間の中では一番か二番の強さ。
彼はただの老保安官…? ある秘められた過去があり…。
性格や描写明確な3キャラのやり取りがとにかく楽しい。
マイペースなベルゼブブ、神経質なシーフ、真面目なラオ。教科書のようなお手本のようなキャラ個性。
人間と悪魔。種族を超えた友情や信頼もしっかりと。
と言うか、話の面白さ楽しさより、実は深いテーマと大切なメッセージに大変魅せられた。
貧困や独裁。水不足のサンドランドは資源が枯渇し始めている現世界そのもの。
人間も悪魔もお互いをよく思っていない。だがいざ知り合えば、それが誤解だったと分かる。
人間は悪魔を恐れている。残虐な行為や人々を苦しめ…。そんな事、一度だってしていない! 盗みや悪戯はしてるけど。
人間は都合の悪い事は全て魔物のせいにする。人間は人間同士で殺し合うが、悪魔は悪魔同士で殺し合ったりしない。人間も殺したりしない。
寧ろ、悪魔以上に悪魔なのが…、言うまでもない。
人間。一部の人間。
欲や金の為に水を独占。
他を支配。“戦争”という偽善を掲げて。
かつてこの国で戦争があった。ピッチ人の恐ろしい計画を軍事力によって滅ぼした。
が、それは真っ赤な嘘であった。国中の為に水を造り出す装置を開発したピッチ人。水独占の為に装置もピッチ人も葬った。これが真相。
悪魔からしても、何と罪深く愚か。
ラオはこれに激しく動揺する。我々人間の愚行だからか…? 否。
その時指揮を執った伝説の将軍、シバ。装置の大爆発で巻き込まれて死んだと思われていたが…、生きていた。
そう。ラオこそシバだったのだ。
この時ラオは多くの部下と妻をも亡くした。以来名を変え、ひっそりと生きてきた。
命令で正義の為にしたと思っていた事が、嵌められた大量虐殺と知る。
自責。
そして命令を下した上官だったゼウ大将軍への怒り…。
バカな国王を操って、今やこの国の実質実権を握っているゼウ大将軍。水の独占や過去の陰謀もコイツが主犯。
泉探しの冒険の先に、まさか昔の因縁。絶対に、奴だけは許せない…!
ゼウ大将軍の配下でラオたちを執拗に追うアレ将軍。
ただの敵キャラかと思いきや、軍人としての誇りや人格もある。ラオたちとの戦車バトルで敗北し、部下の身を案じ投降する。
かつての大戦で軍人だった父を亡くした。亡き父はラオ=シバの部下だった。
ラオから事の真相を聞き…。
ラオたちとアレ将軍部隊の闘いに割って入ろうとする“スイマーズ・ファミリー”。自称“悪党No.1”だが、彼らだって…。
根っからの極悪人は登場しない。皆、一度分かり合えば分かり合う事が出来る。
だからラオもベルゼブブも命を奪ったりしない。一旦闘った後、話し合いで解決を。
ベルゼブブはゼウの科学者集団が造り出した“虫人間”も命までは奪わない。
そういや、『ドラゴンボール』で悟空もそうだった。これ、凄く大事な事だと思う。特に今の世に於いては。
そんな中で悪役を一手に引き受けるゼウ大将軍。
勧善懲悪な娯楽活劇に於いて、悪役も必要。フリーザ並みに憎々しいくらいの。滑稽な面を踏まえつつ。
時として許せない人間の醜悪さを集結。だからこそ思う存分ぶつける事が出来る。
コイツをブッ飛ばせ!
バトル漫画の第一人者故、アクションの見せ場や躍動感はたっぷり。
でもそれ以上に、戦車バトルに興奮。
鳥山氏のメカニック好きは有名。本作でも相当こだわったであろうメカニックのデザインやディテール。
本当にこれが描きたくて本作を書いたんだろうなぁ…と、伝わってきた。
そして素晴らしく童心くすぐる。
虫人間に苦戦するベルゼブブが真の力を覚醒。それはまるで、『ドラゴンボール』のセル編で秘められた力を解放した悟飯そのものではないか!(尚その虫人間は明らかにサイバイマンやセルジュニアだろう)
老人と少年が活躍って所も亀仙人や少年悟空を彷彿。
決着はラオvsゼウの老人バトル。老人老人と言っているが、老いても尚闘志は燃え尽きぬ。この決着シーンは、西部劇なシチュエーション!
判明するラオの正体と過去。
アレ将軍や敵対していた者たちとの和解。
ベルゼブブら恐れていた者たちへの理解。それはベルゼブブたちだって同じ。
信頼を築く。
偏見を捨て去る事。
人間より彼らの方が純粋。
悪いのは一部であって、人間だって捨てたもんじゃない。
これらの過程やメッセージがとっても感動的。所々目頭熱くさせられた。まさかまさか感動させられるとは…!
闘いはあるけども、その果てに非暴力や平和を訴え、鳥山明の心根を見た。
それを余す所なく描き切った横嶋俊久監督の手腕にも。
画のクオリティーも素晴らしい。
声も本職起用。安心して世界に入って行ける。山路ボイスはステイサムでなくともカッチョイイ!
シンプルな分かり易さ、面白さ、楽しさ。
だからこそ響くテーマやメッセージ。
軽い気持ちで見てみたら、予想を遥かに超えてきた。
普通に面白かったじゃない。クオリティーもエンタメ性もメッセージ性も含め、素晴らしかった!
子供にも大人にも自信を持ってオススメ出来る。いや、世界にだってウケるでしょう!
もう夏も終わりに近付いたというのに、今夏の超大穴登場!
宮崎アニメや洋邦話題作より面白かったなんて許されると思うか?
個人的に、本作こそ今夏のNo.1!
おはようございます😃
コメントいただきましてありがとうございました😊
薦めていただいて鑑賞しました。
SAND LANDの大ファンのようで。興行の事も同じく仰っていました。☘️
遅くから失礼いたします。
共感していただきましてありがとうございました😊
情熱❤️🔥溢れる本レビュー、拝読させていただきまして大変うれしく思います。
やはり、正しく真摯に生きていく大切さを学べたと思います。
ありがとうございました😊