劇場公開日 2023年8月18日

「偏見は正しい判断を狂わせる」SAND LAND おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0偏見は正しい判断を狂わせる

2023年8月19日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

幸せ

原作未読ですが、鳥山明さんの作品ということで期待していた本作。公開初日に仕事帰りに鑑賞してきました。

ストーリーは、水不足で人間も魔物も困っている砂の世界・サンドランドで、人々のために立ち上がった保安官ラオ、魔物の王子・ベルゼブブ、魔物の泥棒・シーフの三人が、「幻の泉」を探す旅の中でしだいに心通わせるようになるとともに、水不足の原因やラオの過去が明らかになっていくというもの。

開幕わずか10分で主要人物の立ち位置と作品世界の概要を理解させ、幻の泉探しの旅がスタートするという鮮やかな立ち上がりで、観客は瞬く間にサンドランドの世界に誘われます。その後も、砂漠の巨大生物や盗賊に襲われたり、王国軍と戦車戦を繰り広げたりと、旅の苦労を重ねながら、ベルゼブブたちが少しずつ心を通わせる展開がなかなかいいです。やがてそれは周囲の人物にも広がっていき、終盤につながる伏線となっているのもおもしろかったです。

鳥山明さんらしい、わかりやすくて心が洗われるストーリーは、言ってみれば勧善懲悪の王道展開です。それだけに、“偏見や欲望といった人間の弱く醜い心が要らぬ争いを生み、そしてそれを解決するのは強く正しく優しい心だ”という強いメッセージが、シンプルに伝わってきます。

中心的な登場人物は、悪魔でありながら純粋な心のベルゼブブ、愚痴は多いが王子のお目付役としての掛け合いが楽しいシーフ、老いてなお正義感と芯の強さを失わないラオと、個性豊かな顔ぶれです。これに加えて、国王、アレ将軍、ゼウ将軍など、他の登場人物もしっかりキャラが立っていて、行動にブレがないので観ていて気持ちがいいです。

そんなキャラクターたちがいきいきと動き回ったり、細部まで描かれた独特のメカが登場したりと、映像的にも楽しませてくれます。アクションシーンも見応えがあり、ワクワクさせてくれます。夏休み中のアニメ作品ということで、残虐性はなく流血も必要最低限で、子どもが観ることに配慮した描写に好感がもてます。

ただ、バトルは意外と少なく、変わり映えのない砂漠でのシーンが大半だったりで、やや中弛みは感じます。また、水を巡る話でありながら、砂漠の旅の過酷さがイマイチ伝わってこないのも残念でした。とはいえ、劇場で観るべき良作で、子どもから大人まで幅広い層におすすめできます。

キャストは、田村睦心さん、山路和弘さん、チョーさん、大塚明夫さん、茶風林さん、鶴岡聡さん、飛田展男さんらベテラン声優陣で、安心して作品世界に浸れます。やはりアニメ作品はこうありたいものです。

おじゃる