劇場公開日 2024年12月13日

「外の人がいる意味と手を抜かないで作るということ」はたらく細胞 ざざぼんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0外の人がいる意味と手を抜かないで作るということ

2024年12月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

正味20分のTⅤアニメであれば原作のように体内だけの世界描写でばらばらのエピソードを重ねても体裁は取れるが、ライブアクション映画になるとそうもいかないのでは?、と懸念していたが外の人(人間ドラマパート)を作ることで「人間に起こったこと」と「体内で起こっていること」を対応させることでそれなりにまとめようとしていたと思う(しかし前半は人間パートの場つなぎ感があからさまだったが)。後半になると人間パートの比率が大きくなり場つなぎではなくストーリーとして体裁が整い「実はその時体内では...」とのバランスも良くなりあまり気にならずに鑑賞できた。
基本の構成は娘の芦田愛菜の体内がはたらく細胞、父親の阿部サダヲの体内がはたらく細胞BLACKでそこに原作の各種スピンオフ作品を織り込んで作られ、前半は娘の中のパラダイス感と父親の中のやさぐれ感が良いコントラストになっており、そこから後半のいわゆる難病ものに移行していく。原作やアニメと同様に本筋とは全く関係ない用語解説コーナーや説明セリフとしか思えないやりとりが随時織り込まれるので、そこを「楽しみながらためになる」と取るか本筋と関係なく冗長と見るか、後半の難病ものではお涙頂戴的なけれん味が顔を出してくるがその塩梅は見る人によって好き嫌いがあると思う。私は解説コーナーは元々あったものなので気にしなかったがけれん味はやや過剰に感じた
アクション監督の大内貴仁と佐藤健の組み合わせはどんなアクションであっても安心して観ていられるが仲里依紗、松本若菜、Fukaseなどおよそワイヤーアクションと縁がなさそうな俳優陣も遜色ないレベルで動いていて見ごたえがあった。またキャスティングは事前に情報解禁になっているキャスト以外にも無駄使い(カメオ)とも思えるような起用がありそれはそれで楽しいが、一番の特筆点は子役のキャスティングに手を抜かなかったこと。原作でも赤血球の1/3~1/4の大きさ(長さ)の血小板は子供として描かれているが、それを小柄な大人ではなくきちんと数十人の子役に子供ではなく小さいだけできちんと成熟した細胞(大人が演じる細胞と同じ大人な細胞)として演じさせ、芽球(骨髄でできる赤血球や白血球になる前の未成熟な細胞)やFukaseの未成熟期の子役には子供として演じさせ、それ以外にも芦田愛菜の体内で起きたカタストロフの跡地に降り立つ細胞などにきちんと演技のできる子供を大量に起用している。どれだけの人数のオーディションを重ねたのかを考えると手を抜かないことの重要性を認識させられる(もちろん大人も大量のエキストラを起用し様々なモブシーンが描かれるがこの人数の子供の選出に比べれば物の数ではないだろう)。
体内パートで一つ気になったのが細菌などから攻撃を受けた免疫細胞たちが傷ついた部分から「出血」すること。体内にいる細胞が傷つくと出血か...。擬人化だし理解しやすさとしての表現なのは間違いないが少し呑み込みづらかった。侵入者と同じように融けたり雲散霧消したりはやはり避けるか。
外の人パートでは阿部サダヲの茹でたトウモロコシの常温放置→それを食べて食あたり→排便を極限まで我慢→排便→過緊張からの解放による排便失神(排尿でもおこる)の流れはさすがの阿部サダヲの顔芸と演技だし、芦田愛菜は前半は片親なこと以外は何のひねりもないごく普通の女子高生という意外に彼女には振られない役を演じており、阿部サダヲと加藤清史郎の共演もあり楽しそうに見える。後半難病ものになってからは足の青あざはともかく何もない状態から鼻血が流れ落ちるシーンや病状が進行し治療も相まって徐々に顔が白茶けていくところは実際にはもっとくすんでかさついてたりするが、顔や唇の色、目の下のくまの感じなど再現度は高く、同年代のトップキャリアの国民的女優としてはこのメイクは頑張っていると思う。芦田愛菜の母が亡くなるシーン(病死)では母役の方はちょっと強めの美白メイクな感じだった。
その後芦田愛菜の体内で無差別爆撃と焦土作戦(オーロラで表現された)が決行され、荒涼とした景色と廃墟と残骸しかない状態になり生きた細胞がいないショッキングな世界になりますが、成功すれば血液型が変わるような治療だけに、死屍累々でさえもなくなるような焦土を事前にきちんと見せるのは重要だろう。(女優の吉井怜は血液型がA→Oになったことをを公表している)

採点とは関係ないですが...
観たのは13日の最終回(レイトショー)で23時台終了だったのですが、上映後に幼稚園児らしい女の子と両親がいるのに気付いた。上映中静かだった女の子がさかんに「楽しかった」と繰り返すので気付き、そう言っているのが救いだったがどうしたものか。
ただ、そんな子供でも楽しめる映画なのは確からしい。

ざざぼん