「赤と白でおめでたい、少し早めのお正月映画」はたらく細胞 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
赤と白でおめでたい、少し早めのお正月映画
アニメ視聴済の「はたらく細胞」、実写映画の予告編を観て「これは面白そう!」と思って観て来たのだが、完全にノリが「翔んで埼玉」で楽しい映画であった。強いてジャンルを呼称するなら「体内お仕事アクション」である。
映画を観ていて一番強く感じた事は「永野芽郁は素晴らしい俳優だなぁ」ってこと。
白塗りの佐藤健(白血球)を前にして、笑わずにあんなエモーショナルなシーンを完璧に演じきれるのだ。素晴らしいとしか言いようがない。
永野芽郁が主演を務める映画は結構観てるのだが、シリアスでダークな話でもコメディでも、そしてもちろん今作でも、どこか親近感があって素直に応援出来るキャラクターになっているところが共通かなと思う。それが俳優・永野芽郁の個性なんだろう。
赤血球役は完全にハマり役だ。「はたらく細胞」以外に赤血球という役は無いと思うけどね。
原作には無い(らしい)体の持ち主のパートがあって、体内と現実世界のシーンが行ったり来たりするのだが、それが状況を掴みやすくしている。
自分にとっては何てことの無い「くしゃみ」一発の間に、体内ではあの攻防が行われてるんだな、と完全に映画の世界を自分ごとに出来る仕組みだ。
体内に侵入してくる細菌やウイルスだけでなく、嗜好品や薬が与える影響力の大きさも感じられ、健気に自分の役割を全うしようとする細胞のいじましさと相まって、「体を大事にしよう」と思えるのだ。
アニメを観た時にも感じたが、自分が感じている以上に自分の体内の細胞たちはメチャクチャ頑張って自分のことを支えてくれているのだな、と改めて感謝の気持ちが湧いてくる。
「お仕事アクション」と書いたが、アクションシーンはかなり気合いが入っていて、アクションに定評のある佐藤健はもちろん、仲里依紗(NK細胞)のアクションにも見応えがあった。仲里依紗にアクションのイメージが全く無かったので、本当に意外。
細胞の世界だからとにかく細胞の人数が多く、それだけで迫力が違う。同じシーンをアニメで再現してもこの迫力は出ないだろう。それだけでも実写化した意義は大きい。
映画の後半は現実世界の展開に影響され、体内もかなりシリアスな状況に陥り、前半のお祭り騒ぎとは一転して深刻な状況下で最善を尽くそうとする細胞たちの姿が描かれる。
現実でも体内でも、生きる為に必死で、だからこそ圧倒的な破壊とそこからの再生に普遍的なものを感じずにはいられないはずだ。
人間主体で世界を捉えたとき、そこには必ず「人間のエゴ」があり、体内においても地球規模で考えた場合でも、あるいは「社会」を考えても、人間が生きていく上で「害」となれば一度徹底的に害を排除し新たに作り直す、という行為は繰り返される。
その時「痛み」や「死」を引き受ける側は必ず存在していて、そうした犠牲の上に新しい世界は構築されていくのだ。
映画の後半はそんなエゴイズムの営みを表現する、意外とガチの社会派テイストでもある。
とはいえ、基本的には細胞たちの働きを通して健康な体を維持していることに感謝しながら、明るく楽しむ映画である。
お正月までまだ2週間強あるが、主演2人が赤と白の衣装に身を包み、非常にめでたいカラーリング。
新年の健康を願って、ただ願うだけじゃなく自分で自分の体を労って、1年元気に過ごしていこう、と思える作品だ。