「息子は母の好物を忘れない」To Leslie トゥ・レスリー redirさんの映画レビュー(感想・評価)
息子は母の好物を忘れない
ガーンと大音響ドリー・パートンで始まりいかにもアメリカの田舎町の家族写真。宝くじに当選したレスリーへのテレビのインタビュー。
このインタビューのビデオには続きがあり、息子ジェームズの部屋にあったギターや最後小さなダイナーをオープンする動機の種明かしとなる。
宝くじを無駄に使い切り無惨なホームレス同然となったレスリーには痛い映像だが、結果としてそれが再起を促すのだ。きっかけはすべてスウィーニー。映画に流れる音楽の歌詞ではやたらと天使が佇み見守っているようだが、スウィーニーがまさに天使であり、スウィーニーをおそらく救済した天真爛漫なロイヤルも天使であろう。バプティスト!と冗談をいう教会通いに熱心だったレスリーの母親、牧師にアル中になった妻を寝取られたスウィーニー、と、日本にはない日常に密着した信仰があり、一人一人は自分の契約を生きているので過剰な干渉には自分の人生口出すなと啖呵も切るし染みついたレベルの信仰があるから、許せないことや手を差し伸べようとすることもあるのだ。
舎町を出て小さな都会に暮らす息子はまだ若いが自立して建設現場で働いておりルームシェアをして多くの日米の若者がそうであるような慎ましい質素な暮らしで生計を立てている。ホームレスになった母親から電話が入り6年ぶりの再会。その後、隠れて酒を飲むアル中の母親を全く理解することができない。(当然だが)ジェームスが、自分はまだ未成年で酒を飲むこともできないのに…と。母親に怒りと苛立ちを見せる。6年会っていなくて、まだ未成年???え???となり、地元のレスリーと同級生のナンシーから、あなたが息子を捨てたのは彼がまだ13歳の時、と聞いて、計算があい、13歳で息子を捨て出奔したのか、と、母親の窮状より息子の苦労に思いを馳せるし、ナンシーが執拗にレスリーを攻め立てるのも合点が行った。
ネタバレだが、最後は、ええ??というくらいの、ほのかな薄明かり、愛と天使の存在を信じたくなるハッピーエンド、人生やり直しOK、希望を持って、ということになるのだが、田舎町の人々の暮らしぶり、それぞれにリアル。
息子を訪ねに行くバスの中で臭っただろう、迎えにきた車で臭かっただろうくらいに、ズタボロに汚くなってしまったレスリー、アル中になりホームレスになったことを言わない母親に、息子のジェームスが、中華買ってくるよ、まだワンタン好き?ときく微妙な優しい気質滲み出るジェームスのセリフと表情に泣いた。 一緒に服を買いに行く、上の空の母親に、肩のところがリボンになってるタンクトップを選ぶのでまあアメリカだし、と思ったけど選んだ息子はまだ19際だったのね、と後から後からいろいろ納得。母は最後の方でネタバレされる息子のギターを部屋に見つけ感慨に耽る。
この映画には、天性の、まさに天から与えられた無償の愛を捧ぐべく存在する(出来なかったけど)天使ジェームスと、人としての痛みを知るものでありまたこれもまあ天性の、素敵な性格なんだろうけどレスリーに過剰に手を差し伸べ一緒に生きていこうとするスウィーニーと、そして、バーで知り合う謎に<ゴージャスな><ナンパ男>瞳キラキライケボの男あれはほんとの天使だったんじゃない?と3人の天使プラスハレハレクリシュナをターンテーブルにセットしているぶっ飛んだロイヤルもね。なんと人生立て直すのに、四人の天使が必要で、とにかくレスリー役の女優の迫力、リアル、天使たちやナンシーもみな存在が人生を存在が社会を物語るレベルに素晴らしい。
で、スウィーニーは天使なんだけどほんとは天使じゃない、彼はリアルに等身大のレスリーに理由もわからず惹かれてしまう、下心とかじゃないし最初は恋愛感情でもないと思う、この、人間らしさの象徴である、名前をつけれない把握できない感情、なんだかわからないけど出会ってしまったという微熱感。これがレスリーを救いスウィーニーをも救いナンシーもジェームズも救うのだ。
日本もなんだけど、アメリカも貧しいのだなと思った。
田舎町の息苦しさと、それでも小さい頃からみんな知ってる、諍いも助け合いもある良くも悪くも共生する共同体。
最後は、バグダッドカフェ、、と思いました。
本作は名作でもっとたくさん上映館があるべき作品。
、
予想外のあったかい映画でした。
途中、知り合いの人たちはなんて冷たいんだろうと思っていましたが、最後まで見るととても納得できるものでした。
「もっとたくさん上映館があるべき作品」ほんとにそう思います。