「罪の問いと司法の在り方の為の無辜ゲーム」法廷遊戯 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪の問いと司法の在り方の為の無辜ゲーム
続けて永瀬廉主演映画を。
別にファンだからって訳じゃないからね。
Netflixで『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』見て、そのすぐ後たまたまTSUTAYAの宅配レンタルで本作が届いただけだからね。
法廷サスペンスは好きなジャンル。
しかし本作は杉咲花ら実力派を配しているものの、主演はアイドル・永瀬廉でキャストも比較的若く、ストーリーも法科大生がロースクールで行う模擬裁判とやらで、何かちょっとコレジャナイ感が…。よって劇場スルー。
しかし見てみると、司法への矛盾点や疑問に切り込んだ、思いの外骨太なリーガル・ミステリー。
いつもながら、先入観は良くない。
事の発端はロースクールで行われる模擬裁判、“無辜(むこ)ゲーム”。
聞き慣れぬ言葉の難読漢字だが、罪の無い事、またその人を指す意味だとか。
無辜ゲームの発起人であるエリート生の馨がナイフで刺され、息絶えて発見された。
その傍らには、血の付いたナイフと返り血を浴びた同級生の美鈴が。
彼女と幼馴染みで司法試験に受かったばかりの清義(きよよし=通称“セイギ”)が弁護を担当する事に。
無辜ゲームが本当の裁判へ。一見単純そうな事件に見えて、実はその裏には、3人の過去と目的と執念が複雑に絡んでいた…。
幼馴染みの清義と美鈴。同じ養護施設で育った。
守ってくれる筈の大人たちに守って貰えず。親からのDV、施設長の性的悪戯…。
まるで反発するかのように、大人たちをターゲットにする。
電車の中などで美鈴が痴漢に遭ったフリをする。二人でターゲットの大人を問い詰め、金で解決させようとする。
ある日のターゲットの男。思わぬ事が起きて美鈴と男は駅の階段から落下。
一命は取り留め、男はリハビリに励むも、世間からバッシング。男は自ら命を絶つ…。
清義と美鈴は知らなかったのだ。男が警察官であった事。馨の実の父だった事…。
清義と美鈴による冤罪。
馨は父の無実を証明したい。二人に復讐を。
ロースクールにばら蒔かれたチラシ。昔ある養護施設で施設長を殺したのは、清義…。
美鈴の家には盗聴が…。
いずれも馨。
しかし馨は死んだ。事故か、殺されたのか…?
その真意が、隠しカメラの“無辜ゲーム”に収められていた。
対する美鈴と馨。ここで馨は因縁と目的を打ち明け、驚きの案を…。
馨の目的は父の冤罪の再審請求。が、そんな事は無理。何故なら、一度立証された案件の間違いを国が認める事になるからだ。
そこで美鈴に自分を殺すよう仕向ける。美鈴に殺人容疑が掛けられ法廷に立ち、この件の重要案件として父の冤罪事件も再び公に出す。そこで父の無実を証明する。
隠しカメラの動画から馨の死は事故であり、美鈴の無実も証明された。
全ては馨が仕組んだ事。それはまんまと成功した。
が、ここで疑問が。再審請求は被告人の配偶者か直系の親族しか出来ない。
馨の父は離婚しており、馨が死ねば再審請求出来ない。本当に馨が死ぬ必要はなく、殺人未遂でも良かった。
当初の目的通り再び日の目に当てられる事になったものの、馨の死は不運な事故だった。
本当に事故だったのか…?
二転三転の“三転”。
馨の死は事故ではなかった。殺意を持って。
美鈴と馨の父はトラブルあって階段から落ちたとされていたが、そうではなかった。傍を通り過ぎた清義が馨の父を階段から転げ落とさせたのだ。
それを見ていた者がいた。駅に父を迎えに来ていた馨。
無辜ゲームや仕組んだ裁判は、“無辜”である清義の罪を問う為。
こここそが、馨の真の目的であった。
それを知った美鈴。清義に罪が及ばぬよう、提案を利用して馨を殺害。
全てを知った清義は罪を償おうとするが、美鈴はそれを留めようとする。
清義は私のヒーローなんだよ、と…。
公開時観るのを躊躇した若手キャストだが、熱演を見せる。
永瀬廉は『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』の等身大の好青年像とは違うシリアス演技。
それも悪くないが、やはり実力派の二人。
北村匠海はキーパーソンとして印象的に。
前半は控え目に。徐々に真意が明らかになり、豹変する様は、さすが杉咲花。
若手キャストの演技バトルをたっぷり堪能させて貰った。
劇中で問うた。
無罪と冤罪の違いは…?
言い放った。
無罪とは検察が立件に失敗したに過ぎない。
衝撃でもあるが、それを言い放った者だからこそ言える痛烈な皮肉。
だから冤罪が増える。
ならばどうやって、罪を問い、無罪を立証させ、冤罪を無くす…?
我々や司法に司る皆に問う。
今一度、司法の在り方を。
3人が、司法を信じていたあの頃のように。