「原作改変と証人尋問の共通項」法廷遊戯 pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
原作改変と証人尋問の共通項
2023年12月6日映画館にて鑑賞。
レビューを書こうと思いつつ、3ヶ月半が経過してしまった。
馨の目的は
「無辜の父を救済する事」だ。
同害報復を大前提として、どうすれば父は救済されるのか?
父が死んだからにはミレイにも死を与えるべきか?
そうではない。それでは
「眼には眼を」ではなく「眼には眼と耳と鼻と口を」になってしまう。
ミレイの罪は殺人ではないのだから。
でもここが馨の凄いところだろう。
多くの人間は「きっかけを作った者」も「引き金を引いた者」も共に死に値する、と考えてしまうと思う。
ここで、ミレイとセイギを殺すことが復讐にはならない、と考えるところにカオルという人物の凄さを見ることが出来る。
さて、きっかけを作ったのがミレイならば引き金を引いた者は?
そう「司法」だ。
日本の刑事裁判の有罪率は99.9%。検察は面子にかけて起訴された被告人を有罪に導く。
一度確定した判決は覆らない。明らかな冤罪だとしても。
ミレイが警察に「虚偽の供述だった」と告白したくらいでは再審の扉は開かない。日本の司法機関は基本的に自らの誤りを認める事などないのだ。
再審は「開かずの門」と呼ばれているそうだ。
馨がミレイに下した罰は「再審請求の決定打となる形での罪の告白」だった。(その鍵がSDカードに収められた馨が斃れる現場映像)
と、ここまでのストーリーは比較的容易に推測可能だ。
(ただね。二転三転して面白かったーと言う声も、予測通りの展開でつまらなかったという声も、大ドンデン返しってほどじゃないじゃんという声も、大抵ここまでの話を指しているみたいなのよねぇ。)
しかし「馨を殺さなくても殺人未遂で充分目的は達成出来るではないか?」という点が疑問だった。
そう。これこそが真の大ドンデン返し。本来の馨のシナリオでは馨は死なない。SDカードの映像はあくまでも馨とミレイが打ち合わせ済みの演技だ。
馨は再審請求者の地位を手に入れるために、父親が自ら命を絶つまで無辜ゲームの開始を待ち続けていたのだから。
馨が暴こうとした2人の罪はそれぞれ「虚偽告訴」と「傷害」
虚偽告訴の時効は7年だが傷害は10年だ。そして犯行は9年前。
ミレイはセイギを守るために新たな罪を犯した。
更に凄いのは、馨は1年以上も前から「ミレイが最後にこういう行動に出るかもしれない」と予期していた事だ。だからセイギにUSBを託したのだ。
セイギが真実よりミレイの無罪を優先する事も知っていながら・・・。
沈黙を貫けば、何事も無かったように幸せに生きていける。しかしセイギはその道を選ばなかった。馨の想いを受け取ってしまったから。
2人で幸せに生きていきたい、というミレイの切実な願いを痛いほど知りながら、セイギは彼女と袂を分かち罪を償う道を選ぶ。
同害報復は制裁ではなく寛容の論理・・・。
映画制作における原作改変も、裁判の冒頭陳述や証人尋問も似たようなものだな、、、と思った。
要は裁判員(鑑賞者)への心証形成だ。
原作とまるで違う過剰な演出も(無辜ゲーム会場がおかしな秘密結社の儀式みたいな洞窟だとか(苦笑)賢ニや沼田の過剰過ぎる演技とかもすべては「心証形成」の仕掛け。
(ってか沼田って誰だよ?佐沼と権田をくっつけたの?それくらいなら権田要らないから佐沼のまんまで出してよね。この点は不満!)
描かれたピースから観客が勝手に完成させたパズルが、映画に描かれているストーリーや主題とはかなり違ったものであっても、観客が各自のパズルを星5、星4或いは星2だと思ったのならばきっとそれで良いんだよね(苦笑)
(裁判員・陪審員裁判はそれじゃ困るんだけどな!)
まぁ、でもねぇ。この高評価はちょーっとモヤるのよねぇ。(低評価もモヤるwストーリー正しく把握出来てる?って)
でも本作に関しては「是非、原作を読んで」とは言うつもりはない。
この秀逸な法学テキスト小説(笑)を、この短尺で万人ウケするエンターテイメントによく仕上げたものだ。その点は高く評価されるべきであろう。
コメントありがとうございます。
私もこの映画大好きでした。
PIPIさんのレビューもコメントもよく読み直しました。
色々不束な私にアドバイスありがとうございます。
好き・・では安っぽくてすみませんが、
心から観て良かったと思う愛せる作品でした。
これから連休に入ります。家族も読みたいと言ってますので、
みんなで五十嵐律人を楽しみたいと思います。
ありがとうございました。
pipiさん
コメントありがとうございます。
私はこの映画とても面白くて興奮して観ました。
それでAmazonで原作を買いました。
多分、明日着く予定です。
作家が弁護士の方なので、法律用語は殆ど分かりません。
でもそこをすっ飛ばしてもこの映画(原作)良さ、そして映画が
分かりやすく改変されたのも、良かったと思います。
ご指摘の2点。
身内の証言は、最初からはじかれるるんですか?
そうかー、
でも殺人事件の被害者の場合には身内でも唯一の目撃者なら、
考慮されたりしませんかね。
(この場合は当てはまらないと、思いますが、)
ここで、ミステリー好きのあるレビュアーさんは、
こう言われてるんです。
透さんでしたかお父さんは、このミレイ捜査にあたり、
当然上司にことわって、捜査に当たっている筈では?
私もそうか、なるほどと感じました。
いわば美鈴とセイギは美人局的に痴漢をはたらく男性を嵌めて、
お金を恐喝してたのでしたね、
犯行が重なりブラックリストに載っていたはずです。
ここをスルーしたのは原作者の五十嵐さんの、
分かっているけれどプロット上で、必要と思われたのでは?と
深読みしております。
②番目の殺人・・・
体重をかけたのですね、美鈴は!!
pipiさんのコメント読ませて頂き、
美鈴の純情をセイギは裏切った卑劣な男のように思えてきました。
ありがとうございます。
とても好きな推理映画でしたので、お話出来て嬉しかったです。
原作読みますが、本を読むのが遅くて、
頑張ります
コメントありがとうございます。
改変が悪だとは思わないのですが、意味のある、プラスになる要素であってほしい。
准教授→教授は柄本明を出したいだけと感じてしまい、残念でした。
pipiさんが挙げられている“良さ”も、原作のものであり、映画としての良さが少なかったな、と。