「「今日、お父さんの誕生日だから農協から五万円貰えるの」」almost people 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
「今日、お父さんの誕生日だから農協から五万円貰えるの」
見終わってからチラシを見て「感情のかけた4人のきょうだいの物語」と知って納得した。喜怒哀楽がそれぞれ欠けているのか。まるで、4つのお題の共通項は何?というクイズに答えられず、解答を聞いて膝をたたく、そんな気分だった。まあ、さきにそのくらいチェックしてから鑑賞せいよ、って話なんですが、なまじ先に情報を入れようとすると、要らぬネタバレを平気で伝えてくること(例えば妻が死ぬとか先に知ると、ああこの女死ぬからこのフラグかと冷める)があるので、なるべく予告を見た時の直感で観るかどうかを選ぶのだ。
と、前置きしておいてから言いますが、このオムニバス形式の連作、4人の監督の個性というか世界観が違いすぎて、カレーとサラダと果物と天ぷらあたりがワンプレートに乗せられて出てきた感があった。カレーとサラダと果物はなんとか分けられても、天ぷらはねえだろ、って違和感がね。
簡素に感想を。
1.ボイスレコーダー ←喜びの感情が欠けている長男。
そもそも、人の気持ちがわかりにくい時点で、ライターには不向きなんだろうけど、そんな奴の言葉はむしろ奇をてらうから、独特な発想になるともいえるか。案外、一番身近にいそうな「欠如人間」だった。そして家族にいたら一番いとおしい存在だと思った。
2.ヒューマロイド ←怒りの感情が欠けている長女。
一番、理解不能だった。SFチックな世界も、役者の演技の質も。もしかしたら、このパートがなかったら、映画全体の印象はもっとハートウォームな、いいものになっていただろう。
3.Still OK ←楽しい感情が欠けている次男。
木竜麻生の存在に救われているのは、観ているこちら側も。なんでこんな男を好きになったのか、早く見切っちゃえよ、としか思えない。でもこの子は、人の足りない部分ではなく、人よりも優っている部分をちゃんとみてあげているんだな。「対話ってお互いが分かり合えないって確認することなんだって。対話にできることは歩み寄ることだけなんだって。」ここまで言ってくれてるのにね。楽しい、は独りよがりではなく、共に。でも井之脇海はそこに気づくことができないんだろうな。
4.ハネムーンベイビー ←寂しい感情が欠けている次女。
後からそれを知っても、ちっとも共感はなかった。なぜなら、彼女の空虚感からはそれを感じていたから。だけど、この設定で丸々1話映画を作ってもいいんじゃないと思える魅力があった。それは次女役の子の存在感。一瞬でぱっと雰囲気を変えてくる。先生や父親の、この子に接する距離感もまたよかった。(一般的な常識というよりも映画の魅力としてだが。)ロケ地やバックのスライドギターも呑気な空気作りに一役買っていた。だけど、このタイトルはネタバレなんだけどね。エンドロールで初めて知るからいいのか。
そして、そのベイビーを囲むことで、4人のきょうだいに、それまでなかった感情が芽生えていくのだろうな。