劇場公開日 2024年5月17日

「静けさの中に宿る武士の誇りと、新時代劇の到達点」碁盤斬り シモーニャさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 静けさの中に宿る武士の誇りと、新時代劇の到達点

2025年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

斬新

『碁盤斬り』は、従来の時代劇が重視してきた派手な殺陣や勧善懲悪の構図から距離を置き、武士の清廉潔白さと倫理観を“静の身体性”で描き切った作品である。
その中心に立つのが、草彅剛の圧倒的な役作りだ。
落ちぶれた武士でありながら、なお“武士であること”にこだわり続ける主人公の姿は、台詞よりも佇まい・所作・目線の動きといった微細な身体表現によって語られる。草彅の演技は、誇りの残り火を抱えた男の静かな強さを見事に体現し、作品全体の重心として揺るぎない存在感を放っている。

また、本作で巧みに機能しているのが、碁の勝負を武士の生き方と重ね合わせる構造である。一手の重み、読みの深さ、引くべき時と攻める時──碁盤の上で展開される静かな攻防は、そのまま主人公の人生の縮図となり、物語に深い象徴性を与えている。
殺陣ではなく“碁盤”で武士道を描くという発想は、時代劇の新しい可能性を切り開くものだ。

本作は、旧来の時代劇が持っていた“型の美学”とは一線を画しながらも、日本的な良心・誠実さ・正義感といった普遍的価値観をしっかりと継承している。
そのため、伝統と革新が矛盾なく共存し、まさに“新時代劇”と呼ぶにふさわしい作品に仕上がっている。
総じて『碁盤斬り』は、派手さではなく“静けさ”によって武士の魂を描く、現代時代劇の到達点とも言える一本である。草彅剛の身体性が物語を支え、碁盤という静的な舞台が武士道の精神を浮かび上がらせる。

観終わったあとには、深い余韻とともに、日本的倫理観の美しさが静かに胸に残る。

シモーニャ
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