「時代劇? いや、囲碁ウエスタン」碁盤斬り N.riverさんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇? いや、囲碁ウエスタン
正義感が強すぎて恨みをかった今や浪人の柳田が、濡れ衣を晴らし、白黒つけがたい複雑な人の世でいかに己の正義を貫き通すのかを、囲碁勝負における精神性を通して描く骨太時代劇。
だが、観ていて過ったのはウエスタンだった。しかもイーストウッドの「許されざる者」。
筋は異なるが、弱り目に祟り目と不遇重なる主人公が、頑固なまでに踏ん張り続ける展開に同じニオイを感じ取る。
そのどっしり安定感あるシブい演技は主演のみならず、ワキのワキまで行き届いており、ゆったりしたテンポで進むからこそ隅々へ目が行く本編へ、逆に見ごたえを与えていたように感じる。
せかせかした目を引く派手さはないが、そんな演技に美しいセット等々、とても贅沢な時間だった。
正しいことは大いに歓迎すべきだが、正しいからと言ってみなが幸せになるとは限らず。戯作にもよくある「右を立てれば左が立たぬ」世の中は、今も昔も変わらないよなと思うばかり。
囲碁に詳しいと面白さがさらに倍。
観るたびに胡散臭い役で出てくる斎藤さんが今回も、裏切らなかった。
難を言えばラストがやや急転直下で、一気に丸くおさまっている双方にこちらの心がついて行かず。ちょっとホラーでは、と感じたところか。あそこまで克明な描写はトゥーマッチだったかなと感じている。
(追記)
娘の身売りの件で思うのは、冒頭、店のおかみと囲碁に興じるやり取りがキモだと思っている。双方の信頼関係とリスペクト(師弟関係であり、謝礼と多めに篆刻代金を支払う、生活の事情を知ってさりげなく援助するイキな人物)が描かれている。
50両、貸して貸せない金でもないが大金で、社長としては建前(表面上の理由)が必要だろう。つまりおかみは娘を買い取ったのではなく預かった。信頼する柳田なら、必ず取り戻しに来ると猶予さえつけ、賭けたのだ。双方何ら口にはしないがこれぞ暗黙の了解、柳田も自身の今後を思えば(生死)悪いようにはしない人だろうと預けたフシが「うかがえる」。
なにより一日遅れても無傷でかえしてくれた、それが全てを物語っており、約束が建前でないならもう絶対に返してはくれなかったろう。
なんとやくざな世界か、と思わずにはおれないが、そこがシブイ、と理解した。
つまり全員が全員、己の正しいと思う所を成したわけで、ならば必ずどこかで矛盾するはずも、その矛盾を飲み込む力が人情ものの醍醐味だと感じている。