劇場公開日 2024年5月17日

「時代劇の様式美」碁盤斬り ココヤシさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0時代劇の様式美

2024年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

興奮

原作未読だが、白石和彌監督の『孤狼の血』に感銘を受けたので本作を鑑賞。封切日の初回上映で観客は20人ほど。
彦根藩の進物番「柳田格之進」(草彅剛)は掛け軸の紛失の責任を問われて改易され、妻は琵琶湖で入水自殺してしまう。江戸に流れた格之進と娘「お絹」(清原果耶)は、貧乏長屋に住まう。格之進は篆刻作り、お絹は吉原の遊女屋の女将「お庚」(小泉今日子)から仕立て仕事を引き受けて生計を立てる。
篆刻を納品した帰りに碁会所を覗いた格之進は、こすっからい手口で勝ち誇る両替商「萬屋源兵衛」(國村隼)を見かけ、懲らしめてやれという気持ちから勝負を挑むが、あと一手というところで勝ちを源兵衛に譲る。彦根藩時代に「柴田兵庫」(斎藤工)と囲碁で勝負し、兵庫を追い詰めすぎて刃傷沙汰を招いた苦い経験を思い出したからだった。
萬屋で、質草の茶器を壊された、五百両払えといって脅す浪人者を見かけ、進物番の鑑定眼を活かし、茶器が安物だと看破して、店の窮地を救う。源兵衛は礼金を渡そうとするが、格之進は受け取らない。それでは私と囲碁で勝負して私が勝ったら礼金を受け取ってくれと申し込まれ、わざと負けて金を受け取ることもできたのに、勝負に勝ってしまう。実直な人柄に惹かれた源兵衛は、格之進と水魚の交わりを持つようになる。格之進に感化されて商いのやり方も実直になり、それがまた客の評判を呼んで店はますます繁盛。お絹と萬屋の手代「弥吉」(中川大志)は互いに好意を抱く。
格之進とお絹が萬屋の月見の会に招かれて楽しいひとときを過ごしているとき、彦根藩の後輩「梶木左門」(奥野瑛太)が格之進を訪ねてくる。あることから柴田兵庫を取り調べて、掛け軸を盗んだのは兵庫だと判明したという。格之進の妻が自害したのも、格之進の無実を証言できるのは自分だけだと兵庫に迫られ辱めを受けたのを苦にしてのことだった。兵庫は彦根藩を出奔して行方をくらませたという。
激高した格之進は仇討ちの旅に出ようとするが、そのとき苦悩の表情の弥吉が格之進を訪ねてくる。源兵衛の手元から五十両が紛失した、行方を知っているのは源兵衛と碁を打っていた格之進しか考えられないという。
身に覚えのない格之進は自刃して潔白を証明しようとするが、お絹に盗人の汚名を着せられたまま母上の仇討ちもせずに死ぬのかと制止される。お絹はお庚に身売りして五十両を作る。お庚は、お絹の心意気に惚れたから五十両を貸すが、大晦日までに返済されなければ心を鬼にしてお絹を店に出すと格之進に宣告。五十両を弥吉に渡した格之進は、左門とともに仇討ちの旅に出る——といったストーリー。
草彅さんは諦観を漂わせる主人公がハマり役だ。清原さんは貧乏長屋に咲いた一輪の花の風情だし、斎藤さんも憎々しい敵役を好演している。
ただ、城内で刃傷沙汰を起こしたら、その時点で兵庫も格之進も厳重な処分を下されたのではないかと思う。それに最後、正義にこだわりすぎる格之進のせいで藩を追われた人々の暮らしを助けるために、格之進はせっかく取り返した主君の掛け軸を売り払って金に換えようとするが、これはかなり唐突な感じを受けるし、左門がそれに同意するのも不自然だ。ハードボイルドな『孤狼の血』と違って本作は人情味のある結末だったが、これは監督が時代劇の様式美を尊重したのだろう。

ココヤシ