「なぜ、おとなしく泣き寝入りをしているのかが気になる」碁盤斬り tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ、おとなしく泣き寝入りをしているのかが気になる
昼は逆光により、夜は蝋燭や行燈の光により作り出される陰影に富んだ映像は美しく、日本家屋の薄暗い雰囲気がうまく醸し出されている。
武士の誇りを賭けた仇討ちの物語は見応えがあるし、主人公の格之進の謹厳実直なキャラクターには好感が持てるのだが、余りにも融通の利かないところには、少しイライラさせられた。
そもそも、彼は、何故、いわれのない罪で藩を追われたのに、身の潔白を証明しようともせず、おとなしく泣き寝入りをしているのか?
彼が、五十両を盗んだという嫌疑をかけられただけで、切腹をしようとすることにも納得がいかないが、それだけの矜持があるのならば、彦根藩で濡れ衣を着せられた時点で、とっくの昔に切腹していてもおかしくないのではないか?
あるいは、自分に嫌疑をかけた両替商に、「五十両が出てきたら首を差し出せ」と迫るところを見ると、相当、激昂しやすい性格のようにも見受けられるが、それだったら、彦根藩でも、すんなりと罪を認め、罰を受け入れたとは思えないので、それなりに反論するなり、抵抗するなりしたのではないか?
それ以前に、両替商にそんな約束をさせたら、もし、五十両が出てきても、命惜しさに隠蔽されてしまう可能性があるので、「五十両が出てきたら、その金で、吉原の遊郭から娘を引き取ってくれ」と頼むべきではなかったのではないか?
それから、自分の清廉潔白さのせいで、多くの同僚を困窮させてしまったことに罪悪感を抱いているとはいえ、彦根藩に戻ることを固辞する姿も、意固地になっているとしか思えない。藩に戻った上で、改めるべきところは改め、困窮している者を救えば良いのではないか?
などと考えながら、クライマックスの復讐劇を観ていたせいで、せっかくの緊迫した碁の勝負にも、派手な大立ち回りにも、すんなりと入り込むことができなかったのは残念だった。
両替商との決着については、タイトルから事前に結末が分かってしまうのだが、それでも、主人公が、「一度決めたら絶対に譲らない」性格を改め、柔軟さを身に付けたことが分かって良かったと思う。
主人公が、困窮する同僚達を助けるために、仇敵が横領した掛け軸を頂戴するくだりも、善い目的のために悪いことを許容するという、彼の人間的な成長(年齢的には円熟?)を実感することができ、これは、これで、納得のいくエンディングになっていた。
こうなると、やはり、最初の冤罪の時点で、主人公が、どうして、それを甘んじて受け入れたのかが気になってしまい、そこのところの詳しい経緯を知りたくなってしまった。