「本作の持つ先見性」ビデオドローム 4K ディレクターズカット版 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
本作の持つ先見性
本作が劇場公開されたのが1983年。奇しくも1988年に日本で当時世間を震撼させた女児連続殺人事件が起きている。
犯人の部屋には何千本ものビデオテープがあり、その中にはスナッフフィルムに似せた残酷描写で話題の「ギニーピッグ」のビデオもあった。
犯人が誘拐した被害者の死体を損壊した様から、かような残酷ビデオの影響がなにかと取りざたされて、当時学生仲間で鑑賞会をしたことがある。確かに本物かと見紛うばかりの残酷描写だったが、結構コミカルであっさりした内容で鑑賞後何ら悪影響を受けることもなかった。
しかし、心に闇を持つものが見れば真似しようとするものも出てくるかもしれない。だからこそ残酷描写が含まれた作品などは規制がかかったりするわけだが。
過激な映像ばかりを流して収益を上げている弱小ケーブルテレビの社長マックスは過激な映像作品を追い求めるあまり、ビデオドロームというビデオ作品に心を奪われる。そしていつしかそのビデオ映像のもつ魔力に次第に侵されてゆく。
ビデオドロームと呼ばれるそのビデオが発するシグナルは見る者の脳に腫瘍を生じさせ、その腫瘍が見せる幻覚が実体化し、ついには現実が幻覚に支配されるという。
ビデオドロームに侵されたマックスはそれを悪用して世界を支配しようとする組織に操られ殺人を重ねる。しかし、ビデオドロームの開発者の娘によって正気に返った彼は組織を壊滅させ、自らも命を絶つのだった。
ビデオドロームに毒されて新人類となったマックスにはこうするしか道はなかった。
当時オリジナルビデオの氾濫した時代、これら過激な映像で人の心がどんどん毒されていくのではないかという不安を映像化した、クローネンバーグの先見性あふれた作品だった。