「持続する緊張感は見事だが、気になる点も」おまえの罪を自白しろ アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
持続する緊張感は見事だが、気になる点も
原作は未読である。汚れ仕事を引き受けて来た国会議員の孫娘が誘拐され、解放の条件として、金銭ではなく、これまで自分がやって来た罪を記者会見を開いて自白しろという脅迫が、ネット経由で本人に届くという現代的な道具立てのクライムサスペンスである。全面的に汚れ仕事の自白をした場合には、現職総理の立場まで危うくなる可能性があるという。
設定が非常に興味深く、赤軍派などの反日活動化やテロリストが現職総理の辞任や政権野党の失脚などを狙った国家レベルのものかと思っていたら、犯人は想定外の人物であった。誘拐事件が一応の決着を見ても終了とはならず、更に続くので、興味は犯人探しに行く訳だが、犯人像が絞られるにつれて話のスケールが徐々に小さくなって行ったのが惜しまれた。
まず、議員に対する犯人からのメッセージ送信法が非常に奇異に感じられた。あの方法では、IP アドレスなど調べても意味はなく、誰のアカウントで発信しているかを調べた方が早いはずである。アカウントがハックされたか、あるいはそのアカウントの本人が極めて怪しくなる。まずその当人に聞き質すのが最重要のはずであるが、スルーされていたのが謎だった。
誘拐の方法は入念に下調べしたと思われるもので、単純だが足のつかない方法である。あの経路を日常的にママチャリで移動しているとしたら、議員の家族としてのセキュリティ意識の低さが目に余ると思った。それを指摘されて逆ギレするのもどうなのかと思った。
誘拐事件で最も犯人が捕まる確率が高いのは、身代金等の受け渡しの時だそうだが、このケースではそのような場面が発生しないので、ほぼ犯人のいいなりになるほかはない。秀逸な設定だと思った。
しかし、議員の方で会見を開く前に総理に指揮権の発動を求めるというのはかなり現実離れした話だと思った。指揮権発動で警察の捜査権を停止させて逮捕を免れたとしても、今のネット世界でそれが何事もなく国民に受け入れられるなどということはあり得ず、内閣支持率が急激に落下して総理をはじめ、閣僚や政権与党も無事では済まなくなるのは明らかである。
こうした粗が目につくものの、物語の流れと緊張感の持続には満足できた。堤真一の演技は流石であり、長男と次男も健闘していた。娘役の池田エライザは最も存在感があったものの、脇の甘さが気になって同調しにくいものがあった。我が子が誘拐されたというのにそれほど見せ場もなく、慌てふためいた様子もなかった娘婿役の浅利陽介は、あれで良かったのかとかなり気になった。
演出も非常に引き締まっていたと思うが、音楽はあまり耳に残らず、エンディングの歌謡曲も邪魔くさかった。一番気になったのは、これが映画である必要はどの辺にあったのだろうということである。
(映像4+脚本4+役者4+音楽2+演出4)×4= 72 点。