「喪いたくない「男の美学」」探偵マーロウ pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
喪いたくない「男の美学」
※今回、思いっきりネタバレしますのでチャンドラーファン、マーロウファン、「長いお別れ」「黒い瞳のブロンド」読了済みの方は映画鑑賞後にお読み下さい。
上記2作未読の方は鑑賞前でも気にせず読んで頂いて大丈夫です。
また、星4.5は「ハードボイルドファン向け」の評価です。贔屓入ってます(笑)
チャンドラー作品がお好きでなければ無理にご覧になる必要はないかもしれません。見る人を選ぶ映画かも。
さて、JCのみぎりよりレイモンド・チャンドラーと大藪春彦にめちゃくちゃ傾倒していたワタクシとしては本作ばかりは初日に行きたい!と、終わらぬ仕事は夜中に泣きながら片付ける事に決めてレイトショーに向かいました。
結果として最終的な感想としては
「うん、良かったんじゃない!」と思うに至りました。
やっぱり最初は
「いくらなんでも今のリーアム・ニーソンじゃ老けすぎじゃない?一体何歳って設定なの?長いお別れの続編なら40代半ばでしょう?」
と違和感が付き纏ったのですが、考えてみれば1939年という設定自体がおかしい。
それを思えば、ロバート・アルトマン&エリオット・グールドの「ロンググッドバイ」は1970年代設定という大幅改変だし、アルトマンが20年後ろ倒したから今度は20年前倒した?
そう言えば1939年って「フィリップ・マーロウ初登場!(つまり「大いなる眠り」リリース)」の年よね。と思い至る。
それにローレンス・オズボーン著作の「ただの眠りを」ではフィリップ・マーロウ72歳の活躍が描かれています。
「そうだよね、すでに72歳のマーロウが世に出ているし。大体、ボギーだって身長の低さを逆手に取ったくらいだし。」と少しずつ自分を納得させていきました。
そして、何より本作に好感度を抱いた決定的要因は!
ベンジャミン・ブラック(=ジョン・バンヴィル)の原作「黒い瞳のブロンド」に対して「えー!これってマーロウとしてはどうよ?」と違和感というか唖然というか憤りにも近い思いを抱いた部分が「すべて解消」されているんです!
原作ではクレアと割と序盤によろしくやっちゃってるんですが、そんなの「長いお別れ」のあとのマーロウとしてはあり得ない!と感じるわけですよ!
しかして、本作ではファム・ファタールに対してすらクールでストイックな、しかしほのかな苦味を噛み締めるようなせつなさも見事に醸し出してくれていました。(この時に年の差設定はかなり邪魔なんですがw)
また「この場所でレノックス以外とギムレット飲むわけないだろー!」と突っ込んだシーンでもリーアム・マーロウはギムレットは飲まないし、アイリッシュビールも飲まない。
(原作は「これって舞台はLAじゃなくて英国?」って気がするほど、なんか不思議と英国小説テイストです)
原作のブラックマーロウはスノビズムというかペダンチックが過ぎる印象を受けましたが原典はもっと行動派。
本作にて第一次大戦従軍という過去設定を付け加えて腕っぷしの強さを魅せたのはアクション俳優としてのリーアムと原典マーロウを共に上手く活かしたと感じました。
あとね!「飲むふり」をしたシーン!
原作は「ふり」じゃなくて、思いっきり飲んじゃって捕まって拷問(水責め)受けるんですよー!
いくら、叩かれてからの復活がマーロウパターンとは言え、
おいおい?ここは飲むわけないだろー!飲んだらただの阿呆や!
という残念な箇所なので本作の改変に大賛成(笑)
あ!あとね、あとね!
割と気に入った配役がアラン・カミング。
だってね、原作の「あの役」のイメージって私個人的にはスターウォーズのジャバ・ザ・ハットなんですけどー???(大笑い)
アラン・カミングじゃカッコ良すぎますw
いやー、いいわ、これ(笑いが止まりませんwでも原作での彼は事件にここまで絡まず、問題なく生きてます)
その他にもあれやこれやございまして
「これ、これ!これでこそ我らがフィリップ・マーロウですよ!」と大満足なのでした。
加えて言えば、本作はクレアに兄弟も存在しないし、何より「テリー・レノックスも出て来ない!」
そして、ハタ!と気付く。
「これって、全然、『長いお別れ』の『続編』なんかじゃないんだ!」と!
(前半がかなり詳細に原作の情景描写に忠実だからすっかり気付くの遅れたわw)
そう!本作はレイモンド・チャンドラーに最大限の敬意を払い、「長年フィリップ・マーロウ大好き」な「現在のリーアム・ニーソンの為にカスタマイズした」マーロウだったんだ!
そう思ったら、この映画が好きになりました。だから贔屓も含めてサービス加点w
ちなみに原作小説の2/3辺りで話をぶっちぎって改変して終わらせてます。
だから原作の仰天ラストは登場しません。個人的にはその方がありがたいと思う。原作は「長いお別れ」を台無しにしちゃってると思うから。
ただしその分、ストーリーは単純というか陳腐になり、ラストのマーロウの二重の痛み(情を交わした女の裏切り。親友の裏切り)すら消失してしまっているのは大きな減点対象ですけれども。
それって(痛み)ハードボイルドの醍醐味には不可欠な要素だと思うので、最初に付けた4.5点から0.5下方修正しました。
(う〜。そう考えると原作も「上手いっちゃあ上手い」わけか。原作vs映画(本作)は1勝1敗の引き分けってところですかね。早い話がどちらも標準以上の面白い仕上がりだと思います。
結局、原作者も監督も主演もみ〜んな「チャンドラー大好き!マーロウ大好き!」って原典愛に満ち溢れてるのよね。
あー、やっぱりその点加味して4.5に戻すわー。何やってんだ、私www)
決して権力に諂わず、クールな背中に優しさと痩せ我慢を隠して・・・。
もし、本作だけでは「固茹で卵の魅力」が乏しいと感じたとしても、チャンドラーやハメット、ロス・マクドナルドやギャビン・ライアルに想いを馳せれば、本作からもそれらに通ずる断片を見出し、胸に去来する寂寥感に身を任せる事が出来るだろうと思うのです。
(脳内補完してね、って書いてしまう時点で本作に「大切な何か」が足りないって事でもあるんですが。マーロウはつい擁護したくなる。)
嗚呼!内藤陳御大がこの映画を見ることが出来たら一体どんな評をするのかなぁ?新宿ゴールデン街の「深プラ」では一家言あるお歴々が感想を交わし合っているのかなぁ。
マルガリータかギムレットでも飲みたいと思っていたら、高2の娘が一言
「ハードボイルドってなぁに?」
と質問してきましたー。
ガーン!(大ショック)
令和の若人にはすでに馴染みのない言葉になるほど、ハードボイルドは痩せ細っているのですね。
確かにリーアム・マーロウくらい歳降りた姿で適正なのかもしれません・・・。
ボギー、あんたの時代は良かった・・・
今宵はハードボイルドの黄昏を肴に、
「黒い瞳に乾杯!」なぞとカッコつけてみようか・・・
チャンドラー中退(落第)の私とは違い、チャンドラーを熟知されたレビュー、恐れ入りました。
さらに遺族公認の続編まで熟読されてるんですね。
私などがこの映画を評価してはいけませんでした❗
こんにちは~。
返信ありがとうございます。
映画のラスボスはそうなのかなと思いましたが、その職業でそれほど権力や、財力があるのかなあと疑問に思いました。
なので、真ラスボスがいるのかなぁなんて…
インディも楽しみですね😃
コメントありがとうございます。
pipiさんなら、最近話題の小説『成瀬、天下を取りに行く』とか『響』とか、朝井リョウの『少女は卒業しない』などに出てきても違和感なさそう❗️😁
コメントありがとうございます!&相変わらずろくに人の感想みてなくてすみません! こんなにいろいろ情報提供してくれてたんですね。すげえ勉強になりました。というかpipiさん、マジでガチのハードボイルドファンでいらっしゃってびっくりです。パスティーシュまでちゃんと追ってられたんですね!
そうか、原作の後半変えてるとはパンフに書いてあったけど、そこまでなんですね。でも、話の筋がガチャついたり、複数の事件の関わりがよくわからなかったり、何度読み返しても意味がとれないのも含めてチャンドラーの味なんで、そこも含めてまあまあ再現度高いと思いました(笑)。
ちなみに『ロング・グッドバイ』は僕にとってはマイ・ベスト映画の一本で、先日有楽町で観直したので偏愛ぶくみの感想書きました。原作のガチファンからするとムカつく映画かもしれませんが……(笑)
pipi さん、再度のコメント有難うございます。
私もあれから何回か思い返しましたところ、マーロウの金・権威・権力に靡かない、迎合しない反骨ぶり・孤高さはちゃんと描かれていた、と思い直しました。私の抱くマーロウ像に固執し過ぎたのかも知れません。
寂寥感については、事件の裏に隠されていた男女・人間の暗い情念にやるせなさを感じるマーロウの視点が大好きなのですが、考えてみれはこの映画の事件の裏には男の欲や女の野心は有っても情念はなかったので、寂寥感が無かったのも当然だったかな、と。
でも評価は上げませんけれどね😅すみません。
有難うございました。
pipiさん、コメント有難うございます。私はハードボイルドものが好きというより(やっぱり本格推理小説の方が好き)フィリップ・マーロウものが好きなので(大藪春彦は一冊読んで…止めました…スミマセン😅)、pipiさん程高く評価出来なかったのかもしれません。
マーロウのファンと言っても(個人的にはずっと『さらば、愛しき人よ』が好きだったのですけれど)『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』は四回目に読んでやっとその素晴らしさがわかった程度のファンですけれども😅
1930年代の時代の雰囲気としては『チャイナタウン』(個人的にベストテンに入るくらい好き)や30年代ではないですけれども『さらば、愛しき人よ』(ロバート・ミッチャムとシャーロット・ランプリンクの方)の気だるい雰囲気がすぐイメージされる上、1930年代のハリウッド映画が好きなので個人的には物足りないかたったなぁ、ということで…
『黒い瞳のブロンド』を読んでみようかな、とも思っていましたが止めときます😁(せっかく『長いお別れ』がやっぱりチャンドラーの最高傑作だと理解した後なので)
pipiさんの仰る通り若いリーアム・ニーソンとジェシカ・ラングで観たかったですね。
長文、失礼しました。
有難うございました。
刈谷小玉スイカ、知っているのですか。刈谷でしか出来ない希少なスイカです。朝市は先週でした。朝一でゲットしました。(欲しいモノは絶対に手に入れる男。)ア、又映画と関係ない事を。では。気をつけて行ってらっしゃい。
おはようございます。
大藪春彦!! JCで!!吃驚!!
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相変わらず、流石のレビューですね。
今作、個人的には面白かったのすが、一般的にはどうかな・・、と思っていたので、レビューを拝読して嬉しかったです。私は、ダイアン・クルーガーが好きなので、それだけで満足しました。
今から”刈谷小玉”を買いに行きます・・。あー眠い・・。
内藤陳御大とか書かれると、久しぶりに「深夜プラス1」を読もうかなあ・・。では。