劇場公開日 2023年4月7日

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「あの大聖堂大火災の裏側を再現する歴史的記録作品」ノートルダム 炎の大聖堂 mamemameさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0あの大聖堂大火災の裏側を再現する歴史的記録作品

2025年2月23日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

ノートルダム大聖堂の火災は、非常なショックと共に報道された。
慣れ親しんだランドマークの焼失は、自分にとっても相当なショックだったから、フランス人にとってはなおさらだろう。
この映画を見ることで、フランスの火災(だけでなく、おそらく災害全般に対して)対策の甘さが浮彫になるが、それが一般人でも指摘できるのは日本が災害大国であることもあるだろう。
それだけ、ヨーロッパは安全な土地だったのだ。
石造りの建築物が主要となった背景には、地震が無いことと、何度もあった戦争で森が縮小したことの2点がある。
そしてこの2点は、そのまま災害対策がおそろかであったことの原因でもある。
さらに、日本では関東大震災や幾度の津波で注意されることになった「安全性バイアス」(そんな災害は自分には起こらないよ、という希望的観測)が、フランスの火災対策では未だに生きていることがこの映画から読み取れる。
日本では「いつか起こることは必ず起こること」と見做して対策するが、フランスでは「今まで起きなかったから今後も多分起きないこと」ぐらいにしか認識していなかった。
それらの甘さが幾重にも重なって、この悲劇を招いてしまった。
単なるディザスターパニックアクションではなく、災害ドキュメンタリーとしてこの映画が撮られているからこそ、それらの点が見る人に突き刺さる。
防げたはずの火災だったと、あるいはもっと影響を抑えられたはずだと暗に訴えて来る。

幸いに人的被害は無かったが、心の拠り所を喪った人々へのダメージは別の意味で甚大だった。
「教会」と一言で言う場合、それは建築物を指すこともあれば、信仰を内包する「入れ物」としての宗教団体を指すこともある。つまりは、建築物の教会も宗教団体の教会も、信仰=信者を集めて形作るための存在だ。
アイデンティティの殻と言い得る存在を喪った人たちの歎きは如何ほどだろう。

この大聖堂火災には、続きがある。
パリオリンピックには間に合わなかったが、2024年12月に復旧に一区切りがつき、一般公開が始まった。
この5年間の復旧作業もしっかり把握してこそ、この大聖堂の火災は人々の中で消化される。
日本では2025年2月24日まで公開されていた特別展「パリ・ノートルダム大聖堂展 タブレットを手に巡る時空の旅」で、ノートルダム大聖堂の成り立ちから復旧までの詳しい内容を知ることが出来る。
この映画を見た人はぜひともこの特別展も見ていただきたい。もう日数も残っていないけど。

mamemame