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「ドラマに振り切るべきでは」わたしの魔境 秋桜さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ドラマに振り切るべきでは

2023年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1990年代に発生した一連のオウム事件を俯瞰的に捉え、再現ドラマを軸にしつつも当事者のインタビューを交えながら考察していこうという試みの映画。
映画の冒頭で実際のオウム事件について手短に触れた後に再現ドラマのパートが幕を開ける。

当事者インタビューがインサートされるまでドラマパートが結構続き、予備知識なく観ているとドラマパート一本で行くと思っていたところに急に「リアルの当事者」が現れ、複数人が結構長めに話し始めるので、「あぁ、そういう構成で行くのね…」と少し面食らってしまった。(インタビュー自体は非常に興味深くて参考になり、とても良い)

この二本立てのような構成の仕方については賛否がありそうではあるが、私だったらこうは作らないなと思った。
検証やインタビュー、ドキュメント部分を作らせればNHKに絶対敵わないし、やるならそれ専用で作った方がドップリ見応えもあったろうと思う。
映画で作った以上は、そういったインタビューや掻き集めた膨大な情報を上質の演技やドラマ(脚本)に落としこんでこそだと思うので、結局どっちつかずの半端作品であるという印象が強い。

おおよそ30年前にオウム事件が実際にあったという世界線でのドラマなので、登場人物はオウム事件を知ってるという前提が使えるのだから、「ならばそれでもなお、現在の今この社会においても(存在や教訓が刻まれていても)同じことは起こりえるだろうか?」という可能性を探ってみたら面白かったかもしれない。
そして実際にもう一度ドラマ上で説得力のあるカルト集団を再現せしめたら、より一層カルトの不気味さ恐ろしさがサイコスリラー的な恐怖として我々視聴者の心にも深く刻まれたのではないかと思う。

最後にドラマパートに少しだけ駄目出しをすると、やはりカルト教団に入信するまでの流れや描き方が雑。
動機がステレオタイプなのは全然構わないが、もっと絶望に至る過程を丁寧にねちっこく描くべきだと思う。ここの説得力は最重要。編集的にも結構ブツ切りにするのでシームレスに繋がっている感がなくて割とあっさり入信したようにも見えてしまった。
教団内も予算の関係なのかかなりこぢんまりしていて(ただの一軒家に少人数)、せめて柔道場や体育館くらいの規模感の中に人がビッシリ居れば、その異様さが演出できたのにと思うと残念。
一方で音楽は結構雰囲気が出ている上にマッチしていて良かったと思う。

秋桜