「美しい空間が切り取られていた2023.10.16」アナログ 虹孔雀さんの映画レビュー(感想・評価)
美しい空間が切り取られていた2023.10.16
少し批判めいたことを言えば、どんな作品でもそうだが、わずかにも過去の作品に類似する点がある。例えば、事故に巻き込まれ半身不随と脳障害が残ることになったが、悟は最後まで寄り添い、最後には目を覚ますところなどは、八年越しの花嫁のワンシーンと重なる。また、店を覗き込んで、一旦店を離れてまた戻るなどを、実は見ていたなどは、糸(小松菜奈)の回想シーンと重なる。
しかし、同じではなく、しっかりとしたオリジナリティと、一つの空間美が2時間に収められていたことは素晴らしかった。
特に二宮さん、波瑠さんの演技によって一つ一つの間が濃厚に埋まっていくのは、やはり演技の力がどれほどものを言うか、ハートから出てくる力、役者が過去どれだけのものを積み重ねてきたかが無言のうちに伝わってくると感じた。
また、映像の一つ一つの魅せ方が絶妙に素晴らしかったと感じた。冒頭数分でぐっと引き込まれ、たびたび美しい心情を起こさせ、温かい感情を呼び起こさせる。
本作の特徴である、携帯を介さない設定が、観る側の感情を上手に揺さぶり、次はどうなるのだ、と予想させない展開が良く作られていた。
総じて、原作、役者、撮影、編集が見事にマッチした、大人の恋愛の形を一つのフィルムに収めることに成功したのではないかと思う。
世の中には、時代の彼方に忘れ去られた愛の形があるとは思うが、本作品はその愛の形にかぶったほこりを取り払い、美しい輝きを取り戻していただいたのではないかと思う。
ぜひ多くの方にもご覧いただき、愛とは本来どういうものだったかを考え直すきっかけにしていただきたいと思う次第である。
なお、まったく関係ないが、二宮さんと、桐谷さんの組み合わせも、ラーゲリより愛を込めての主演とバディの関係にあるからか、もう一度見直してみたいなと思う気持ちも起きてきた。
まだご覧になってない方は、ブルーレイDVDが出ているので、ぜひご覧あれ。