アナログ : インタビュー
二宮和也&波瑠が語り合う「アナログ」であることの良さ 撮影ではビートたけし&北野武の違いをリスペクト
ビートたけしが初めて書き下ろした恋愛小説を、主演に二宮和也、ヒロインに波瑠を迎えて映画化した「アナログ」が、10月6日より全国公開となる。二宮が演じるのは、手作り模型や手描きのイラストにこだわるデザイナーの悟。彼は自分が内装を担当した喫茶店で、波瑠扮する謎めいた女性、みゆきと出会う。お互いに好意を抱いたふたりだったが、みゆきが携帯を持たないため、「毎週木曜日に、この場所で会いましょう」と約束を交わすことに。携帯電話で気軽に連絡が取れる現代に、あえて連絡先を交換せずに、週に一度だけ“会うこと”にしたふたりの人生は輝き始めるが、突然みゆきが姿を消してしまい――。
会えない時間がより一層、相手を思う気持ち、そして“大切な人に会いたい”という喜びを育んでいく。原作小説が発表された2017年から、コロナ禍を経た現代だからこそ、そのテーマがビビッドに浮かび上がるようになった。そんな本作を二宮と波瑠はどのように見たのか。ふたりにその思いを聞いた。(取材・文・写真/壬生智裕)
――スマホがあればすぐに連絡がとれるこの時代に逆行するような主人公たちの、純粋で“アナログ”な関係性が非常に印象的なドラマ展開でした。実際に脚本を読んだ時はどう感じましたか?
二宮「僕はずっと初期の頃から、タカハタ(秀太)監督とは、ビートたけしと北野武の違いをちゃんとリスペクトしようという風に話し合ってきたんです。いわゆる温かみであったり、人間関係だったり、哀愁であったりというものをどう描くのか、(原作者の)ビートたけしが見たかったものにたどり着けるのか、ということをずっとやり取りしていたので、台本を読んだときはちょっとホッとしたといいますか。そこをちゃんと立体化することができればお客さまに伝わるものになるんじゃないか、という気持ちになりましたね」
――そのビートたけしと北野武の違いというのは?
二宮「簡単にいうと『アナログ』と『首』ですよね。あちらの『首』が北野武で、こちらの『アナログ』がビートたけしということで。ちょうどいい時期に『首』が公開されることになったので、ぜひ両方見ていただければ(笑)」
波瑠「私は脚本を読んで、本当に美しい物語だなと感じました。現代のおとぎ話というくらい美しくて。これを演じられるのだろうかと思ったんですけど、私はタカハタ監督と二宮さんが吹かせてくれる風に乗っかって。その風をつかむのに必死でした」
――今回、共演されてみて、お互いの印象はいかがでした?
二宮「本当に生き方が丁寧な人だなと思います。ただ一方で、ちょっとおじさんの感じもあるし。その二面性がまさに波瑠ちゃんという感じがしていて、うん。どっちも僕は本当に居心地がいいし、だから素直なのかもしれないですね。キャラクターということも、もちろんあるんですけど、喋り方が綺麗だなというか。とっさに出る言葉や所作は、丁寧に暮らしている人だな、という感じがありますね」
二宮「あとこれは本当に願望でしかないんですが、家に帰ったときに、とてつもなく強い酒を飲んでいてもらいたいなという気持ちもあります(笑)。世間に対してとか、現場に対して、いい形でいることに疲れちゃって、どうにもならないときでも、その日のうちに、ちょっと悪口でも言いながら、強い酒でも飲んで、自分で発散しているような感じ。そういう背伸びしていない感じが似合っているなと思いました」
波瑠「お酒はそんなにですけど(笑)。ただ私自身、“育ちがいい”という言い方はあまり好きじゃないんですけど、みゆきを演じるにあたって、内面からくる佇まいみたいなものが、かなり上質なものであるんだろうな、というのは台本を読んで思いました。ですからそこは崩れないようにというのはありました。(ふたりが出会う喫茶店のマスターを演じた)リリー(・フランキー)さんも、みゆきとして見てくださったので、とても救われながらやっていました。たぶんおじさんの感じというのは、(原作者のビートたけしと同じ足立区出身という)下町感じゃないですかね」
――二宮さんの印象は?
波瑠「本当におしゃべりが上手で(笑)。雑談と、お芝居の切り替えがすごいなと思っています。黙っているところから芝居をスタートすると、ただセリフを言う感じになっちゃいますけど、(雑談があると)助走がある感じになるので。それはすごく助かりました」
二宮「すごくいい風に言ってくれるね。ありがたい」
波瑠「すごく楽しかった。芝居だけじゃなく途切れていない時間みたいな、つながった時間のなかにいた感じがしました」
――劇中のふたりの間には、わりとゆったりとした時間が流れていて。いい距離感だなと思ったのですが、おふたりはどういう距離感で演じたんですか?
二宮「本当に、“友達の友達”みたいな距離感なんですよ。自分の友達がずっと一緒に仕事しているみたいな。その友達から、波瑠ちゃんの話を聞いているとかそういうことじゃないんですけど、でもゼロからじゃないというか。はじめましてみたいなスタートじゃなかったっていうのは、助かった部分ではありましたね。それこそ嵐の番組に来てもらって、ちょっとしゃべったりということができていた。その期間が結構あったので、実際撮影に入っても、初めましてじゃないよねみたいな。いい距離感だったし、居心地はすごく良かった」
波瑠「私もそうですね。知ってると、知らないがちょうど良い距離感だったというか。でも私、思い返してみれば嵐さんとの関わり方ってすごい不思議なんですよね」
二宮「そうだね」
波瑠「大野(智)さんとドラマをやらせてもらってからなんですけど、その関わりだけでずっといろんなものに呼んでもらえましたからね。しかも私『VS嵐』に嵐側のプラスワンゲストとして入ってましたからね(笑)」
二宮「そうそう。『VS嵐』の最後のババ抜き企画では最弱王になっちゃった(※嵐とゲストがババ抜きを行い、最弱王という不名誉な称号を得ないために競い合う番組内の人気コーナー。最終回に登場した波瑠は決勝で負けてしまい、永久最弱王という不名誉な称号を受けてしまった)」
波瑠「本当に印象的な関わり方しちゃったなと。あれで最後だったんですよね」
二宮「あれで最後だって言ってるのに、初登場の人が一番弱いみたいになった(笑)」
波瑠「やっちゃったと思いましたね(笑)」
――ところでデジタルの世の中だからこそ、アナログでいたいことはありますか?
二宮「今の時代、アナログなものが贅沢なイメージがしますよね。世の中はデジタル化でどんどん合理的になってきている気がするので。だから時間を贅沢に使うもの、という感じがします。例えば自分なんかも最近、動画をつくったりしていますけど、最近は本当に1.5倍速だったり、2倍速だったりで見ている層というのは確実に増えていますし。ドラマや映画は僕もつくっていないので分からないですが、10分ぐらいの動画でもそういう人たちが多いなと。だから倍速で映画を見ることができない映画館という空間で時間を過ごすというのは、贅沢なことだなというイメージはありますね」
――携帯がなくても生きていけますか?
二宮「僕はわりと大丈夫ですね。Twitter(現X)ができなくなるぐらいで(笑)。必要最低限の電話番号は覚えてるんで、連絡は取れるし。もちろん最初は違和感はあるでしょうけど、でも慣れてくるもんじゃないかな、という気はしてます」
波瑠「私はすごくデジタル弱者なんですよ、本当にSNSもよくわかんないままやっているのもあって。画面上に何かマークがあっても怖くて押せない。本当に分からないものには触らない、というところで止まっている人間なので。ただ私は手のかかるものが好きなんですよ。母も姉も手芸が好きだったので。姉が作ってくれた、子どもの習い事バッグみたいな小さな手提げとか、手ぬぐいを巾着にして持たせてもらったものとかを私はずっと大事にしていて。そういうものは場所を取るし、作るのにも時間もかかるものですけど、本当に贅沢だなと思いますし、手放せないですね」