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映画レビュー
時代に翻弄された作品と創造者。 そして、後世に先人の偉業を伝えんとする後輩の執念。
午前十時の映画祭12(「無法松の一生」坂東妻三郎版の併映)にて。
宮川一夫カメラマンの弟子である宮島正弘氏の修復にかける熱い思い。今の人達に残しておかなければ、あの時代の人々が何も仕事をしなかったことになる。そんな熱い思い。
宮島氏が映像をポータブルプレーヤーで見ながら絵コンテを逆起こししている姿には、宮川一夫へのこの上ない尊敬と憧れ、そして執念に近い修復への意欲を感じた。
この未曾有の一大事業にあたり、国外に協力者を求めなければならなかったのかと思うと複雑だ。
戦時中でも数本は映画を撮っていた映画人たち。戦意高揚映画にも、自分達のメッセージを溶け込ませることに工夫していた。
「無法松の一生」は戦意高揚映画ではないが、内務省の検閲は必須だ。
この脚本に感銘した検閲官が、戦争はもう長くは続かないだろうから終戦を待てと提案したという逸話は興味深い。
ところが、製作費回収のため早期公開を求めた大映の意向で、検閲を通すために稲垣浩監督が自らフィルムにハサミを入れたとのこと。
それらの逸話を古川タクのアニメーションで説明するのが、本作の映画としての見所。
コンピュータはおろか、合成技術も未発達の時代、オーバーラップ映像は同じフィルムに重ね撮りしていたことを初めて知った。
一度撮影したフィルムを(恐らく)現像する前に、巻き戻して重ねて撮影するのだと思う。巻き戻し位置はカメラマンの勘に頼るのだ。ひとつ失敗したらそれまでの撮影分が全てダメになる。驚くべき緻密な計算と、研ぎ澄まされた感覚が必要だということに驚いた。
戦時下で国の意向に沿うようカットされて公開された本作は、終戦後はGHQの検閲で逆の視点から更にカットされたという皮肉。まさに、数奇な運命をたどった映画だった。
東宝で稲垣浩がセルフリメイクした三船敏郎版では、同じ台本を使ったという。
稲垣監督にとっては、念願の“やり直し”だったのだろう。同作品はヴェネツィアで金獅子を得るが、撮影は宮川一夫ではなく、三船の映画を多く撮影した山田一夫による。自身が撮影しなかったリメイク版を宮川は終生観なかったという。
稲垣監督にも、宮川カメラマンにも、クリエイターとしてのプライドと信念があったのだと感銘した。
そして、何より不完全作を公開したことへの無念が二人には、この映画に関わった全てのクリエイターたちには、あったのだろうと思う。
無法松の手引き
"午前十時の映画祭12" で鑑賞。
"無法松の一生" と同時上映。
本作を観たことで、阪妻版「無法松の一生」の悔恨と、同じ脚本を使用した三船版「無法松の一生」にこめられた稲垣浩監督の雪辱の想いを、より深く知ることが出来ました。
デジタル修復の取り組みも紹介されていて、監修者が新たに起こした絵コンテを元に宮川一夫氏の意図を推測してグレーディング調整するなど、拘り抜いた作業が興味深かったです。