「プーチンという人物の周到さがよく分かる」プーチンより愛を込めて カルストさんの映画レビュー(感想・評価)
プーチンという人物の周到さがよく分かる
まず、この映画の元となったのが2000年から2001年に撮影された密着取材の映像であること、映画の公開は2018年であることは理解しておかなければならない。
その上で、プーチンという人物が実に周到であること、自身の考えは絶対に正しいと信じ、目標の遂行のためにはあらゆる障害を排除することに躊躇しないということがよく分かる映画である。
もちろん、ロシアの政治情勢については一般的に報じられている程度のことしか知らないので一部意味不明な点もあるが、それでもプーチンの不気味さはよく伝わってきた。
エリツィンは20名ほどの候補の中からプーチンを後継者に指名したと語っている。選んだ基準については明言されていなかったが、優秀であることはもちろん、民主化を継続してくれそうな人物であることも理由の一つだったのではないだろうか。だが、結果的にそうはならなかったと思う。例えば、国歌をソビエト連邦時代のメロディーに戻したこともそうだ。共産主義国家から民主国家に移行し、ソ連時代の自由が制限された社会から自由が認められる社会へ脱皮しようとしている中で、国歌の先祖返りはそうした流れを逆行させることに他ならない。プーチンの大統領当選が確実になったとき、選挙参謀の一人であるマスメディアのトップが報道の自由を守ってくれと言ったのに対し、プーチンが言葉を濁したのが印象的だった。その後のプーチンのやり方を見ていると、権力を握ってしまえば後はどうにでもなるという考え方がこのときからすでに現れていたのではないか。
ソビエト時代を懐かしんでいたという女性のエピソードがあった。プーチンは彼女に対して、過去には戻れないが今をよくすることはできると言ったという。一見素晴らしい答えに見えるが、プーチンが言う「今を良くする方法」とはソビエト時代と同じような統治手法をとると言うことだ。それをうまく言い換えて(決して共産主義に戻るとは言わずに)、相手を説得する手腕は見事だとは思うが。
それでも、見事に国内を統治しているという評価はあるだろう。どういう統治の仕方をしようが、それはプーチンの自由であるし、そんな彼を20年以上大統領の座に据え続けるのもロシア国民の自由だ。だが、それはロシア国内だけのことにしてほしい。他国に軍事侵攻してまでやることではない。
それにしても、最初の大統領選の時の選挙対策グループの内、ほとんどのメンバーが野党に入ったり亡くなったりしていて、与党に残っているのがメドベージェフだけというのもすごい話だ。プーチンから離れた人々の考えも聞いてみたいものだ。