「(悪い意味で)80年代っぽい映画」ダークグラス 映画野郎さんの映画レビュー(感想・評価)
(悪い意味で)80年代っぽい映画
ダリオ・アルジェント10年ぶりの復帰作と聞いて鑑賞。シンセがバリバリに効いたBGM、ジャッロ感溢れる出だしに期待を持ちましたが…駄作でした。
①超絶無能警官
「フェノミナ」「サスペリア」などの超常ホラーではなく、純粋なサイコスリラーの筈の本作。警察を無能に描きすぎて、サイコホラーとしてのリアリティが皆無です。
犯人が格別高知能という設定でもなく、(しかも後半に行くにつれ突発的な凶行に出るのに)連続殺人を取り逃す。唯一の生存者なのに、主人公の身辺の張り込みや調査はおざなり。警官2人の殉職という沽券に係わる事態なのに非常警戒線を張らず、現場から持ち去られた警官のスマホのトラッキングはなし…。全てがバカバカしい。
②魅力的な設定、最低のキャラ描写
盲目の娼婦と孤児が疑似家族となり、殺人鬼に立ち向かう…。この設定自体は素晴らしいけれど、まるで活かされない。
スリラー映画のいち定型として、「逆転」のカタルシスがあります。社会的、或いは肉体的に弱い立場にある人間が、弱点と思われた特性を活かして逆襲に転じる。例えば盲目の主人公ならば、(古くは「暗くなるまで待って」などのように)暗闇を武器に戦う手が挙げられます。それに加え、相棒が子供ならアクションの可能性は無数にある筈。
それなのに後半は受け身の逃亡劇になり、締めはチート盲導犬が全部搔っ攫う始末…。前半のディアナは娼婦ながらタフで現代的な女性像だったのに、後半は悲鳴と泣き言しか口にしないので見る側の好感度も下がっていく。ドラマの組み立てが下手過ぎです。
③散漫且つショボいサービス
85分とジャンル映画の枠に収まる尺…なのに冗長さを感じる本作。理由としては本筋に絡まない無駄なシーンが多いところでしょうか。特に逃亡が始まってからの、沼地でのヘビ騒動→通行人との悶着→森ではぐれる→ダム管理棟でのプチ避難の下り20分は、まるまる要らないですから。
ただこれはダリオアルジェントが悪いというよりは、ホラー映画の水準が上がったということでしょうか。ブラムハウスやA-24なら社会風刺を絡める、クリストファーランドンやジョーダンピールならジャンルの脱構築を図る、と独自性がある。バイオレンス描写一つ取ってみても、韓国ノワールの肉体破壊は昔のジャーロを遥かに凌駕している。正直言って、いまどき首から大量出血って程度じゃショボいんですよね…。
結論としては、全くおススメできません。類似の設定ならば「見えない目撃者」が社会派・リアリティ・アクションのどれも比べ物にならないですし、ハードコア描写がお好きなら絶賛公開中の「オオカミ狩り」を観に行くべきでしょう。