「誰にも理解出来なかった」ジョーカー フォリ・ア・ドゥ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
誰にも理解出来なかった
バットマンの宿敵“ジョーカー”の誕生秘話を描いたオリジナル・ストーリー。
コミックをベースにしながら、それを払拭したリアルな犯罪サスペンス。
重く、暗く、救いの無い。バイオレンス描写もあって、年齢制限。にも関わらず、世界中で10億ドル超えのメガヒット。日本でも50億円超えの大ヒット。
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、アカデミー主演男優賞。
まさしく、2019年を代表する一本となった。
あれから5年。哀笑のピエロによる戦慄のショー、第2幕が開く…。
今秋期待の洋画が、人間怖がらせ屋、哀笑ピエロ、剣闘士。いずれも続編だが。
この中で最もスパンは短いが、やはり気になる。
誰にも理解出来ないさ。社会を混沌させ、収容された精神病院で不敵に笑ったジョーカーことアーサー。
あの後、どうなったのか…?
それほどセンセーショナルでインパクトあった。
前作と同じくヴェネチア国際映画祭で初お披露目。ところが…。
賛否両論。前作も賛否両論だったが、今回はよりくっきりと。
先日、アメリカ公開。ところが…。
前作はOP成績約9300万ドルの大ヒットスタートだったのが、今回は半分以下の約3700万ドルでのスタート。前作の米最終成績約3億3000万ドルどころか、1億ドル超えも厳しそう…。批評(Rotten Tomatoes支持率)も酷評レベルの現33%。ラジー賞警戒!
日本でも公開が始まったばかり。宣伝にするほどの賛否両論。
一体、どうした…!?
まあでも、実際見てみないと分からない。
今回はよりセンセーショナル過ぎて理解出来ないだけ。寧ろ、私はそれを期待している。
ジョーカーが再び、狂ったショーへ誘ってくれる…。
が、私が見たかったジョーカーはそこに居なかった。
アーサーのファーストシーンがそれを物語っていた。
前作以上の病的な身体。ジョークも言わず、あの耳に残る笑い声も発しない。
生気ナシ。廃人。魂の脱け殻。
悪と狂気のカリスマとして権力や社会に抗っているかと思いきや…。
看守や他の囚人にも侮蔑され、前作始まったばかりのアーサーのよう。
一体、彼に何があった…?
5人を殺害。母親も含めれば6人。その罪に押し潰され、目的も生きる意味も無く、どん底へ逆戻りしてしまったのか…?
そんな時出会った一人の女性、リー。
お互い惹かれ合い、愛を歌い踊る。
それは新たな狂気のショーの始まりに思えたが…。
レディー・ガガ参戦。“リー”と呼ばれるが、DC作品を嗜んでいれば分かる。
ハーレイ・クイン!
コミックでもジョーカーの恋人。ジョーカーに関わるのであれば登場の必要性はあり。
マーゴット・ロビーが演じたブッ飛びガールとは印象を一新。この世界観には合っている。
ホアキン・フェニックス×レディー・ガガ。異才の二人によるケミストリーにワクワク。
もう一つの話題が、ミュージカル・テイスト。
これがまた賛否両論となっているが、個人的には悪くはないと思う。
全編がっかりミュージカルではなかったが、結構歌が彩る。ミュージカルは空想シーンとなり、アーサーの心情を描写。
歌い踊り狂って。二人の世界へ。
しかし、もっと突き抜けて欲しかった気がする。
アーサーの裁判が開廷。
アーサーは弁護士を解雇し、ジョーカーとして自らを弁護。
自分を見下したゴッサムのクソ野郎どもを糾弾。お前も、お前も、あのエリート3人も、マレーも、ウェインも!
世間ではジョーカー信奉者が増加。愛するリーも裁判を見守る。
ここまでは良かった。しかし、そこからが…。
一体何の心境変化があったのかはっきりと分からぬが、アーサーが罪を認め、悔やむ。
途端にジョーカーへの信奉熱が冷めていく。
それでもリーは自分を分かってくれると信じていたが…。
リーが愛したのはアーサーではなく、ジョーカーであった。
希望も夢も無いこの世界で、何処までも何処までも二人狂い。
が、アーサーが望んだのは、愛する人との愛と平穏な人生。
ここも意見分かれる。本作はあくまで、孤独な青年アーサーの物語。戦慄の事件を起こしたが、人並みに望むのは…。
アーサーを一人の人間として見るなら悪くないだろう。が、多くの人が見たかったのは、狂人ジョーカー。
悪と狂気に染まり、見る者を震え上がらせるジョーカー。それが物議を巻き起こしても、賛否両論になろうとも。
やはり本作は、我々が知るDC作品のジョーカーとは全く別物。
そして、あのオチ…。呆然。衝撃ではなく、ああ、結局こういうオチなのか…。
トッド・フィリップスがオリジナル・ストーリーと思わぬ才で新しく築いたジョーカー像。
もっともっと、狂気の高みに我々を引き摺り込んでくれるかと思ったら、まるで突き放し、全否定し、自ら築き上げたジョーカーを“殺した”。
それもそれで大胆不敵なアプローチかもしれないが…、何か違う。
バッドエンド。前作もそうだったが、前作はそれでも不謹慎ながら映画としてカタルシスがあった。本作は何と言うか…。
アーサーを一人の人間として描くのもありきたりと言うか、安直。結局こういう着地になるのか…。
先述通りミュージカルはもっと突き抜けて欲しかったし、裁判モノも好きなジャンルだが、本作には醍醐味が無かった。
思い返せば思い返すほど、不満点しか挙がらない。
超期待外れ、がっかり残念、駄作ってほどではないが…。もう本当に、コンナンジャナイ感が…。
今回の続編こそ、誰にも理解出来なかった。
一緒に観た弟の感想。アメリカでの不評や不発を知らずに鑑賞。
この続編、作る意味あったの…?