「悲しみをMADに変えて、フューリー・ロードを突き進め」マッドマックス フュリオサ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
悲しみをMADに変えて、フューリー・ロードを突き進め
2015年、世界は再び熱狂の炎に包まれた!!
血沸き、肉躍り、偉大なる監督のMADにひれ伏した…
だが…
『マッドマックス』にはまだ語れる物語があった!!
近年最強のアクション映画としてインパクトを放った『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。
昨夜予習で改めて見たけど、やっぱ面白かったね。
あの狂気と興奮から9年…。いよいよジョージ・ミラーが新たな『マッドマックス』のエンジンを噴かせる。
しかし、続編ではない。前作は続きも出来そうだが、見事に物語が終結。続きはちと難しそう。
今回のプロットは前作製作時からすでに構想があったという。
すでに知られている通り、フュリオサの過去。
イモータン・ジョーの私設軍の大隊長であったが、ジョーの妻たちを連れ、反旗を翻す。その逃走の中、マックスと共闘を…。
腕のいいドライバーで、勇敢な戦士。不屈の精神。その源は、故郷への帰還…。
主役のマックス以上に場をさらった。言うまでもなく、シャーリズ・セロンの代表作の一つとなった熱演。
フュリオサの過去は前作でも本人の口から語られていたが、ほんの少しだけ。
左腕が義手になった経緯、如何にして戦士になったのか…?
元々は“緑の地”で平穏に暮らす少女であった。あまりにも壮絶な半生が明かされる…。
フュリオサの物語であると同時に、『マッドマックス』の世界観をさらに掘り下げ。
単なるスピンオフや前日譚ではない。また一つ、新たな伝説が刻まれる…。
故郷から拐われ、母親を殺され…
仇のならず者たちに囚われ…
敵対勢力側の物になり…
虎視眈々と仇討ちと故郷への帰還の機会を狙い…
幼かった少女は悲しみ、憎しみ、傷付きながらも、怒りの戦士=フュリオサへ。
ただ文章にするとよくある復讐物語かもしれないが、圧倒的な画力を目の当たりにすると打ちのめされる。
拐われても決して諦めない。何故ならその後を、母が追う。
娘を取り戻すべく、たった一人で追跡する勇敢な母。後のフュリオサの勇敢さは実母から受け継がれたのだ。初めましてのチャーリー・フレイザーが美しく、カッコいい。
助け出され逃げるも、すぐ追っ手に捕まる。
幼い少女には酷過ぎる。目の前で母は…。
その光景を忘れない。私はあの男を絶対に許さない。この手で必ず殺す…!
最愛の母の命を奪ったのは、凶悪バイカー集団の長、ディメンタス。
雷神様が宿敵へ。憎き仇でありつつ、ユニークさや深みも含ませ、シーンスティラーと絶賛されるほどクリス・ヘムズワースが嬉々として演じている。
仇の“娘”として生かされる。その屈辱はどれほどのものであろう。
この暴力が支配する荒れ果てた地で生きる術を教え、危機に陥った時助けるなど“父親”的な庇護も見せるが、仇である事に違いはない。
一切口を開かず、真っ直ぐ見据え続け…
ある時、一人のウォー・ボーイズを捕まえる。この荒れ果てた地に、豊富な水や資源や武器の砦があるという。
ウォー・ボーイズ、砦、息子や配下、そしてイモータン・ジョーとの“再会”に何故だか嬉しくなった。ああ、この『マッドマックス』の世界…。故ヒュー・キース・バーンに代わりジョーに扮したラッキー・ヒュームが謙遜ナシ。
荒れ果てた世界で、遂に相対した二人の支配者。
これも『ゴジラ×コング 新たなる帝国』のように分かり易く言うと、大きなシマのヤンキー集団にバイク乗りヤンキー集団がタイマン。
対等な会合の場を設ける為、ディメンタスはジョーのガスタウンを“人質”に。
即座に抗争起きてもおかしくない一触即発の中、会合で一旦手を打つ。ディメンタスはガスタウンを、ジョーはフュリオサを。
かくしてフュリオサはジョーの配下へ。
いつしか少女から成長。奴/隷のように働きながら。
ここでも素性を隠し、何も喋らず。
いよいよ転機の時が訪れる。
ジョーとディメンタスの覇権争いは激化。
ジョーのガスタンクをディメンタスのバイク集団が襲撃。フュリオサは秀でた活躍を。
そんなフュリオサを目に掛け、右腕にしたのは、警備隊長のジャック。
フュリオサに闘い方や自分の全てを叩き込み、過去も話す。フュリオサも誰にも話さなかった自分の事(目的の地がある事)を話す。
若い男女ながら恋愛関係には発展せず。信頼と固い絆。それが『マッドマックス』の世界にぴったり。
この狂った世界の中で、唯一漢を感じさせるジャック。演じたトム・バークのカッコ良さ。是非、彼主役のスピンオフを!
遂にジョーとディメンタスが全面抗争。
その先発として、ジャックとフュリオサがガスタウンを奇襲。
危機もお互い助け合い、生き延びる。混乱の中、二人は“緑の地”を目指して…。
ディメンタスが追う。その執拗さ…!
追い付かれ、激しいカーチェイスが繰り広げられる中、フュリオサは左腕を負傷。二人は捕まる。
その恐ろしい拷問…。ジャックはバイクで延々引きずり回され、フュリオサは負傷した腕で吊るされ…。
絶体絶命。もはや絶望と死しかないのか…?
しかしフュリオサは諦めなかった。一瞬の隙を付き、自ら腕を切断して逃げる。
この時、またたった一人…。ジャックとの死別は劇的に描かれない。暴力と死の世界で、人一人の死など無惨に呆気なく。母の時もそうだった。妙にリアルに感じた。
私から大事な二人を奪った。私はあの男を絶対に許さない。必ず、この手で…。
遂にその時が…。
何とか砦に辿り着く。
あの男は私が殺す。ジョーに進言。
金属の義手を装着。車や武器も。
砦へ進撃するディメンタス集団を襲撃。
たった一人で部下どもを一人一人殺し、ディメンタスを追い詰める。
私を覚えているか。
フュリオサよ。悲しみをMADに変えて、復讐の時だ。
前作『~怒りのデス・ロード』の異常な高揚感にはちと及ばず。
が、期待外れなどでは決してない。
前作は終始アクセル全開の超疾走だったが、本作は徐々にアクセルが掛かってくる。
前半の重厚なドラマに引き込まれ、中盤からの怒涛のアクションにフルスロットル!
代名詞の超絶カーアクションは勿論健在。中盤のガスタンクvsバイク集団はこれぞ『マッドマックス』!
開幕のフュリオサ母の追跡、ディメンタスらによるガスタウン占拠、フュリオサとジャックによるガスタウンでのバトル、フュリオサとディメンタスの決着…。
前作の金太郎飴のようなアクションぎっしりでなくとも、アクションは要所要所に。
迫力の映像、編集、音響、トム・ホルケンボルフの音楽が興奮を高める。
前日譚だからシャーリズ・セロンの不在は致し方ないが、災い転じて福となす。
アニヤ・テイラー=ジョイ降臨。見事、シャーリズ・セロンからフュリオサを引き継いだ。
キュートなルックスと華奢な身体でこの超絶アクションの世界を生き残れるか一瞬不安に思うが、彼女の独特の個性がこの世界観にゾクゾクするほどハマり、何よりあの目力に射撃される。
台詞は少ない。アニヤの登場は中盤になってから。
前半約1時間は少女時代。幼きフュリオサ役のアリーラ・ブラウンも特筆もの。
主役のアニヤが前半1時間も出ないなんて驚かされるが、大胆な構成(5章仕立て)で面白くもある。
しかしちゃんとアニヤの映画であり、クリスらクセ者たちの映画でもあり、フュリオサの物語でもあり、『マッドマックス』の映画。
そして、ジョージ・ミラーの映画。
前作時で70歳。今現在79歳。
前作の時も思ったが、今回は尚更。
一体何処に、このエネルギッシュさやダイナミックさが…?
ドラマチック、エモーショナル、エキサイティングでMADなアクション…。上映時間2時間半もあった…?
しかも『マッドマックス』2本の間に異色ファンタジーも手掛けるフィールドの広さ。
いやもう、80過ぎても90過ぎても驚きはしない。
彼は必ず、また『マッドマックス』の世界に帰ってくるだろう。
そして我々をまだまだ驚愕させ興奮させてくれるだろう。
広い荒野の果てに目的の地を探し続けるの如く。
ジョージ・ミラーと『マッドマックス』はまだ終わらない。闘い続けるフューリー・ロード。
我々は次のMADを待っている。待ち続ける。