劇場公開日 2024年5月31日

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「Remember Me? いや忘れてください。」マッドマックス フュリオサ しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0Remember Me? いや忘れてください。

2024年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

さあ、前日譚祭りの真打ちの登場だよ!

マッドマックスの魅力は、世界観、カーアクション、個性ありすぎのキャラクター、計算された絵作りは皆が言うとおりだが、オレに関して言うと、メル・ギブソンそして手作り感、カルト臭、北斗の拳といったところ。

「狼よさらば」('74)、「ローリング・サンダー」('77)、「エクスタミネーター」('80)といったB級復讐バイオレンス映画の系譜の中でトップに君臨する第1作('79)、弱肉強食な世界を舞台に、タッてるキャラクターだらけが大人気の第2作(’81)、ハリウッド資本を受け、80年代のスピルバーグ的絵作り、音作り、大作感ありつつも、カルト臭は十分に残して、唯一無二の世界観の拡大に成功した第3作('85)ときて、「怒りのデス・ロード」('15)。

「怒りのデス・ロード」(以下FR)は正直過去3作に比べると、個人的にはそんなに好きではないが、それはメルがいないのと、手作り感が希薄になって、世界観があまり継承されてないのが気に入らないだけだ。(あと地を這うようなカメラワークと正面ドーーーーンが少ない)。(映画自体は長すぎる感はあるが)スピード感満載の、CG臭を上手く消し、ALL実写と勘違いする輩続出の見事な編集とカメラワーク、ゲスな悪役イモータン・ジョー、そして何といってもシャーリーズ・セロンはかっこよく、トム・ハーディも本作においては、十分にマックスだった。(初見時のマックスの去り際が不満だったが、今はあれは素晴らしいと思っている。)

「フュリオサ (ア マッドマックス サガ)」

あえてそうここで書くのはそういうことである。「マッドマックス フュリオサ」とは書きたくない。




フュリオサの物語は、FR制作時に既にあった、ということで、FRが成功したその流れで制作されたわけであって、本作「作りたくて作れた」作品であることは確かだ。だが、その構想からストーリーや設定がFRが成功したのち、ブラッシュアップされたのかと考えてみるとどうも違うようにみえ、また完成までの期間は、残念な運命、選択肢によって、こうなったとも見える。

残念な選択肢、あるいは運命のひとつは、ジョージ・ミラーがアニヤ・テイラー・ジョイを見つけてしまったことだ。シャーリーズ・セロンはこの前日譚に興味を持っていたようだが、ミラーは本作をそのタイミングで撮る気はなかったらしい。その間にアニヤを見つけ、
本作に抜擢。

実際、アニヤは素晴らしい役者だが、あのFRのフュリオサには繋がらない。額に黒塗りで目が映えるのは彼女以上の存在はいないだろう。目で語る必要のある役でもあるため、その素質は十分に発揮されたと思う。

だが、FRの、オレが魅了されたフュリオサはセロンの、たくましく大きくかつ美しくもある体躯、美しさを隠せる演技力、体を使ったアクション、シューティングの美しさ、サマになる、説得力のある画はセロンだからこそ。

たとえ、本作は少女時代だったとしても、170cmのアニヤではやはり厳しい。(派手に男と格闘するなど、キャシャな体躯でも許されるアクションに限定はされてはいたが。)

残念な選択肢、あるいは運命のもうひとつは、クリス・ヘムズワース。彼の本作での存在が本作の最もダメなほうへけん引している。

彼を使わざるを得ない等の事情もあったりするかもしれないが、この役ディメンタスが圧倒的に魅力がない。これはもともとの設定なのか、ヘムズワースに合わせたものなのか、とリあえず、つまらない。「エンドゲーム」でやっちゃってるから、イケメンのギャップも自虐ギャグにもならず、ただの二番煎じに。(そういや、隣にロキみたいなのもいたな)。

退屈だけなのはまだ許せるが、この存在のおかげで、イモータン・ジョーがイイヤツに見えてしまう構造が決定的にまずい。これだと、イモータンの前日譚が見たくなったが、わざとなのか。オレ自身はフュリオサよりイモータン・ジョーの前日譚のほうが絶対面白くなる、と思っている。(が、それだとカーアクションにはならないが、V8崇拝の理由など、ならなくはないか)

そして、母殺しの復讐の相手はイモータンじゃなかったんだと呆気にとられてしまった。

FRの、重傷を負いながらも、自身でイモータンに近づきの、「Remember me?」こそ、復讐を遂げる最高の決め台詞だったろうし、FR鑑賞時は、相当イモータンに恨みがあったと思わせる、FRの最もアガるシーンが台無し。

あと、フュリオサの左手。なんだ、ただの「1」のオマージュじゃん。手の地図を失ったために、FRでは緑の地にたどり着けなかったわけではないので、失う意味が軽すぎてもともとないことを忘れてしまってたわ。

映像面でいうと、今回CGと実写の差がはっきりしすぎて気持ち悪い。FRは早送りやカット割りで実にうまく隠せていたのに、どうしたものか。犬までCGなのはさすがに泣けた。

また、ガスタウンのありえなさは、どこの「スターウォーズ」なのかとか、緑の地のところとか、どこの「ワンダーウーマン」なのか、とか、物語もより寓話化された分、よくある話で、全く新味なし。「DUNE2」は興味なくて見てないが、砂漠は似たり寄ったりなのか?

むしろ、FRを見ていないほうが楽しめる。だから、おバカ映画でよく言う、「頭空っぽにして見に行け!」とは前作のことはすっかり忘れてしまえ、というのが正解である。

追記1

バッキバキのCG映画なのだから、若返りCG、この程度のアクションスタントならセロンで撮れるだろうし、アニヤもCGで体形作ればよかったのに。(直立の姿はちょっと似てたけど)

運命、タイミングは本当に残酷だ。

追記2

オッサンホイホイの前日譚祭りはこれにて、いったんお開きか。

ここまでは「オーメン ザ・ファースト」の圧勝。

しんざん