「やはり、ただの荒唐無稽なSFじゃなかった」ミッキー17 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
やはり、ただの荒唐無稽なSFじゃなかった
とりあえずポン・ジュノ監督作品なら押さえておかなくては、と思って観に行ったが、やはり侮れなかった……。
冒頭で人の助けの手すら差し伸べられない地の底からミッキーを地上に押し上げたのは他ならぬクリーパーであり、本当に恐ろしいものは人が「怪物」と呼ぶものなのか?それとも人間自身なのか?ということを考えさせられる部分では『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)が頭をよぎる。
また、外の雪景色を見ながら開拓団長のマーシャル司令官らが「唯一無二(ワン・エンド・オンリー)」と唱えながら贅沢を貪っている一方で、ミッキーを交換可能な使い捨ての駒として扱っている様は『スノーピアサー』(2013年)や『パラサイト 半地下の家族』(2019年)などで描かれる格差社会を思い出さないわけにはいかない。
ついでに、赤いキャップをかぶって愚かな権力者を妄信的に賛美する大衆の姿はもう《マガマガしい》あの連中で以外の何者でもない(笑)し、権力者を裏で操り選挙の結果を左右する宗教団体。
予告編から感じた、ただのバカバカしく荒唐無稽なSFくらいのつもりの軽い気持ちで劇場に行ったのに、結局、現代社会への痛烈な風刺を目撃することになった。
そして記憶情報を含めた複製(リプリント)のはずなのに、志向や性質が異なって再生産されてくるというのは、一人の人間にも様々な側面があるということなのであろう。ある人がAさんに見せる顔とBさんに見せる顔が異なるのは、決してどちらかに嘘をついているのではなく、人間には多面性があるとだけなんだよね。