「良ブラック・ブラック・コメディ」ミッキー17 大雪八重さんの映画レビュー(感想・評価)
良ブラック・ブラック・コメディ
ごくたまに、この映画では「命」をどう捉えているのだろうか、と考えさせられる映画に出会う。この映画もその一つ。(「残酷で異常」とか、漫画で言うと「ドロヘドロ」とか)
気弱で卑屈で意志薄弱なミッキー17が、ミッキー18と相対した瞬間から物語が加速していく、という筋書きが面白かった。(恋人にはやたら積極的という点を除いて)消極的だったミッキーが飛び掛かったり自分の権利を主張する、そりゃそうだ。「自分」なんだから遠慮する必要がない。むしろ、ルール(マルティブル)を考えれば殺されるのは確実。
そうした、「死」と直面した時から人生を大きく変えていく主人公像はよくあると言えばよくあるが、このSF空間で展開されるユーモアは実にユニークだった。
個人的な妄想だが、ミッキーが製造されるたびに個体的な特徴があった、という言及があったが、それは彼を「印刷」するプリンターの問題ではなく死と人間の悪意を経験して成していった純粋に人間的な変化なのではないか、と思った。
新天地を探し求める政治的・環境的背景がちょっと薄かった気がした。が、植民する星を見た悪役のセリフから、アメリカのフロンティアスピリットの話でもあるのかと理解した。
そう言った意味でも日本人向けではない印象はあるが、「ブラック企業の悪辣な環境」は共感しやすいテーマかも知れない。あと、馬鹿で無能な派手好きな悪役が「司令官」などと呼ばれて図に乗った結果死ぬ、というのは万国共通でウケると思う。
予告だと「ブラックな環境で死にまくる」的な部分を押していたが、映画で描かれているテーマをきちんと読み取ればよくまとまったブラックコメディだと思う。
不満点を挙げるとするなら、悪役のマーク・ラファロとトニ・コレットの演技がすごすぎて、あっさりした結末にスカッとし切れなかったくらいか。