「「あなたはプリンター生まれですか?」」ミッキー17 鉄猫さんの映画レビュー(感想・評価)
「あなたはプリンター生まれですか?」
一眼レフカメラの交換レンズを清掃する「レンズペーパー」なる“ふき取り紙“、50枚200円程度の使い捨て=“エクスペンダブル“な訳ですが貧乏性ゆえに一枚で何本かのレンズの汚れを拭き取っていたところ前の汚れが次の高価なレンズにベットリついちゃって、1枚4円にも満たない拭き取り紙で20万円の交換レンズを台無しにするところだったのがもう馬鹿馬鹿しくて、それ以来「使い捨て用品」は湯水の如くポイポイ使うようになりました。私の中で"エクスペンダブル“の価値が大きく下がっちゃったんです。目的達成の価値と犠牲の価値を比較して効果最大・リスク最小にするためには惜しみなく捨て去る勇気を持たなければなりません。正しく「麻雀」のようです。ちなみにホンイツトイトイが好きな役。
植民惑星移住の様々な問題解決のために様々な任務の様々な人体実験を受ける事になった「エクスペンダブル」ミッキーバーンズ、記憶は継承されていくのに復元出来るからと言ったって人権蹂躙すぎるだろうに、 死んでからリプリントとなれば人権が断絶する瞬間があるけど現代社会だと死んだ時点で人権って消滅するんじゃなかったっけ?・・・あぁそうか!エクスペンダブル第1ステップの自死の時点でミッキーの人権は消滅、リプリント用データはデジタル遺産となり企業に相続する契約になっているという事なのかしら?マルチプル不可という事は素体が生きている間はリプリント不可な訳で、存在するリプリント体は原則故人のものと言う事になりますし。話中での法解釈はあえてぼかしているように見えますので裏の設定はわかりません。
「何度も生死を繰り返す過酷な任務に就いた可哀想なミッキー」ではなくて「人権の消滅した“著作権フリー“の生体アンドロイド」、そう考えるとそれを知るはずの為政者マーシャルや科学者達のミッキーへの損在な対応にも合点が行きます。現代市場で人間を構成する元素を購入すると1人分は3千円程度だそうで、18人分なら材料費は5万4千円、だいたい製造原価は材料費の5〜6倍なのでかかった費用は全部で30万円ぐらいでしょうか。故人から相続したコピー体合計30万円分程度で未知の問題を解決しながら惑星移住を成功させる、そりゃポイポイ使い捨てしますわな。全く、エゲツない話やな〜と思ったんです。
後半は知的生命体とのファーストコンタクトもの、ナウシカに似ているのはご愛嬌なのか低評価ポイントなのか、お話としてまとまってはいるものの期待を超えるものではありませんでした。もっとぶっ飛んだ話、例えばプリンターでマッチョに改造されたマーシャルVS大量生産されたミッキーのクローン部隊とか、「プリンター」とか「クローン」とか良い設定があるのにあまり活かせてなかったように思います。マーシャルを巻き添えに自爆する時に「人権」とか「意識」とか「死」とかもう一歩踏み込んだ台詞があっても良かったな、とも思います。「ブレードランナー」が名作足り得るのはロイ・バティのCビーム・スピーチがあってこそ、私のような換えの効く“エクスペンダブル“社畜人の琴線に触れるようなお言葉がこの作品にあればもっと傑作になったかも知れません。
もし現在にこのプリンターがあれば貯金はたいて株を買って20年後にリプリントしてもらいましょうか。もう働かなくても良いぐらい株利益が膨らんでいるかも知れません。リプリントされた証拠は体のどこかに記述されているのでしょうか。お尻のほっぺに「#2」とかタトゥーみたいに書かれていたら嫌ですね。スーパー銭湯で知らない人に聞かれますね。「あなたはプリンター生まれですか?」。グレッグ・イーガンの小説、「白熱光」の出だしみたいです。