「ハリウッドSFでも、ポン・ジュノはポン・ジュノ」ミッキー17 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッドSFでも、ポン・ジュノはポン・ジュノ
カンヌもオスカーも制した『パラサイト 半地下の家族』以来となるポン・ジュノ監督の新作。
韓国でKO級の傑作の数々を送り出して来たが、ハリウッド資本の英語劇も今回で3作目。すっかり国際派。
今回も『スノーピアサー』『オクジャ/okja』同様、SF。が、規模が違う。
製作費は1億ドル以上。地球を飛び出した超大作。
しかししっかりと、自分のスタイルを踏襲。ハリウッドでSF超大作を撮っても、ポン・ジュノはポン・ジュノだ。
近未来の地球。どん底生活を送る青年ミッキーは、このまま地球に居たっていい事なんて無く、金貸しにも追われている事から、心機一転で他惑星へ移住。ある仕事に就くが、超々ブラックだった…!?
テクノロジーの進歩が可能にした人間の複製=リプリント。地球では倫理観の問題から認められていないが、これに目を付けたのが、移住計画を推し進める議員のマーシャルと妻イルファ。
移住惑星の植民地化労働に採用。どんな過酷な環境や労働で命を落としても、また生き返られる。特殊な技術で記憶もそのまま。
選ばれたミッキー。人生大逆転と思いきや、その仕事はとんでもないもの。
大量の放射線浴び、超低温の人体実験、未知のウィルスの有無確認…。命が幾つあっても足りない。
何度もリプリントされ、従順させられる。権力者にいいようにエクスペンダブル(使い捨て)要員。
地球でも最低だったけど、ここでも最低。こんな仕事&人生、生き地獄…。
ある時、とんだ事態に。
クレバスに落ちた17人目のミッキー。
救出は不可能。そこを、この惑星に棲む唯一の生物(後に“クリーパー”と命名)が襲う。
死んだ…と思ったが、生き延びた。クリーパーが助けてくれたような…?
基地へ戻ると、18人目のミッキーが。
17人目のミッキーは死んだとされ、リプリントされたのだが…、これが大問題。
かつて地球でオリジナルと複製が同時に存在し起こした事件があり、以来同時存在はタブー。発覚したら元も複製も記憶も含めて完全処分される。
超ブラックな仕事、パワハラ上司、どん底人生、ヤバイ事態…。
ミッキーの大逆転はあるのか…!?
自分の複製であっても、各ミッキーの性格は微妙に違う。
ミッキー17は平凡の極み。オリジナルに近い…? 一方のミッキー18は俺様タイプ。本当はなりたい自分の具現…?
ロバート・パティンソンが見事な演じ分け。
こんな最低最悪の中で、唯一最高の出会い。ナーシャと恋仲に。ミッキーとナーシャのラブストーリーでもある。
強い性格と魅力たっぷりに、ナオミ・アッキーが好演。
『グエムル 漢江の怪物』では怪物誕生の引き金となったアメリカ企業、『スノーピアサー』『オクジャ/okja』『パラサイト 半地下の家族』では富裕層や大企業。権力者の傲慢。
本作ではマーシャル夫妻のパワハラ、ワガママ、独裁をこれでもかと。
権力者の愚行とバカっぷりを、マーク・ラファロとトニ・コレットが怪演。もはやモンスター級。
本作はモンスター映画でもある。『グエムル 漢江の怪物』『オクジャ/okja』に続き、ポン・ジュノがまた新たに生み出したモンスター。クリーパー。
『グエムル』とも『オクジャ』とも違う。見た目は巨大ダンゴムシみたいでキモだが、ラストのキー。
SF、ラブストーリー、格差など社会風刺、モンスター。そこにブラックユーモアをまぶして。
作品を見れば見るほど、しっかり自分色。ポン・ジュノはポン・ジュノだ。
マーシャル夫妻へ反旗。
が、夫妻は捕獲したクリーパーの子供を盾に。何処までも非道な奴ら。
珍味好きな夫人。クリーパーの尻尾は珍味で、それを採ってくるよう命令。
基地の外には子供を取り返しに来たのか、クリーパーの大群。
ミッキー17と18はその中へ。
知能や意思の疎通が出来そうなクリーパー。翻訳機を作り、以前助けられた事もあって、ミッキー17はママ・クリーパーと対話。
ママ・クリーパーが出した条件とは…。
究極の選択でもある。
が、これからこの星で彼らと共存するなら、飲むしかない対等な条件。
人間だろうと生物だろうと関係ない。一つの命。
それを人間は奪った。人間こそモンスター。
権力者は底辺の人間の命すら使い捨てに。傲慢権力者こそ更なるモンスター。
『殺人の追憶』のインパクトからか、バッドエンドやアンハッピーエンド、意味深なラストで終わる事の多いポン・ジュノ作品だが、珍しい希望に溢れたハッピーエンド。
しかしちゃんと問題提起。
ミッキーが見た悪夢。マーシャル夫妻の複製。
テクノロジーがこのまま暴走したら…? 警鐘を鳴らす。
テクノロジーや指導者は必要だが、どう扱うか、相応しいのは誰か。新天地や共存。
単なるSFじゃなく、いつか必ず、我々の指標や課題となるだろう。
いや、今の我々にとっても。
自分が試される。自分自身の証明。