「全てを笑い飛ばす!」バービー ツツジさんの映画レビュー(感想・評価)
全てを笑い飛ばす!
映像・演出・演技(20)
『反転の演出』。これこそが『バービー』において最も特筆すべき点であろう。もちろんバービー役のマーゴット・ロビーはまさに女性の理想たるバービーの実写にぴったりであったし、ケン役のライアン・ゴズリングも然りだ。しかし、現代の男女の社会的性差を性別を逆転させて表現したり、ヴィランとなったケンを言動があらゆる活動家の過激派に見せたりと、反転させることにより現実に潜む事象を浮き彫りにする手法は単純だが力があるといえるだろう。俳優のコメディー調の演技も結構楽しめた。映像は標準的。
16点
世界観(20)
『バービーの世界』はとことん作り物の世界を再現しており、この世界が『(誰かの)理想』であることがわかりやすく表現されている。一方現実は『男性中心の社会』の属性を皮肉って描いており、とてもわかりやすい構造となっている。そして、理想の世界の変容という作中の出来事はもはや『バービーの世界の理想は理想たり得ない』という現実の様相を反映しているのかもしれない。なんにせよ子供にもわかりやすい喜劇的世界観は高評価。
15点
脚本(20)
この映画を一行で表すのなら『バービーが己を知るために、楽園を出ていく。』となるのではないか?コメディー描写や皮肉描写、メッセージ性を強調させたぶん、脚本は可は多少あり、不可はなしといった印象。
12点
キャラクター造形もしくは心理描写(20)
キャスティングのうまさも相まってコメディー作品としてのキャラクターは全員立っていた。個人的に好みなのは、マテル社のCEOだ。コミカルさの中に権力欲が透けて見えるなかなかにいい性格をしているのだが、俳優の喜劇的な演技のおかげで愛すべきキャラとして成立している。
キャラクター造形優先評価で17点
メッセージ性(20)
本作の目玉である。男性社会の批判がかなり前面に押し出されており、注目が行きがちだが、本作のメッセージは終盤と老婆との邂逅シーンに凝縮されていると考えた。
本作は男性社会のみを批判しているように見えてバービーが世界の秩序を取り戻すシーンで女性中心の理想の社会さえもケン達の態度を見せることで批判しているように見える。もはや女性達の理想が理想として成立しないことを悟ったからこそバービーは現実の人間として生を全うすることを決めたのかもしれない。
もう一つのメインとなるシーンはバス停での老婆との邂逅シーンである。
『美しいわ。』と伝えるバービーに老婆は
『知ってる。』と満面の笑みを見せ返事を返したのである。
(ここ結構感動しました。)
『美の根源は他者の目にあらず。己にあり。』
このメッセージこそがこの映画の中核をなる思想であろう。
20点
総評
問題の当事者たる男性の一人としてモヤモヤしたシーンが完全になかったといえば嘘になるし他者との関係や評価を完全に無視した自己評価はあり得ないと確信している。しかし、マジョリティーとなっているからこそ気づかないこと、そしてこれからの理想像を多少強引にそして愉快に浮き彫りしたこの映画の功績を評価したい。全てを笑い飛ばしたような皮肉なコメディー映画としても結構楽しむことができた。
80点