「美術の素晴らしさ」バービー 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
美術の素晴らしさ
プロダクションデザインが素晴らしい。この分野ではオスカーの有力候補だろう。キッチュでリアリティを追求せず、ドールの世界を具現化してみせ、そこに生身の役者がいても違和感のないバランス感とピンクを基調にしたカラーリングをケバケバしさを感じさせずに再現。レトロなポップ感が抜群に心地よさを感じさせる。芝居のあり方もあえて戯画的で、オーバーアクティブなものにしているのも良い。リアルなだけが良い芝居ではない、こういう方向性の面白い芝居もアメリカ映画でもどんどん追求してほしい。
スタンダードモデルゆえに特定の職業やアイデンティティを持たない主人公のバービーと、そんなバービーの彼氏というポジションでおまけ的に生まれたがゆえに、やはりアイデンティティを持たないケンの2人(2体)がフェミニズムや有害な男性性の体験を経て、自分らしさを獲得しようと試みる。現実社会のマテル社は男性経営者の支配だと本作は描かれている。事実かどうかは知らないが、その体制は特に破壊されない。資本主義とフェミニズムの関わりにはある種の課題があると本作は示唆している。
コメントする