「マテル社の懐の深さ」バービー SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
マテル社の懐の深さ
良い意味で思ってたのと全然ちがってて面白かった。
バービーがいかに欧米社会に密着した重要な存在であったかを間接的に理解できた。
バービーやケンの俳優が歳をとり過ぎていて、最後まで人形というには違和感がありすぎると思っていたのだけど、ハーレイ・クインが好きなんで好感はもてた。
バービーは日本だと女児向け人形のいちジャンルにすぎないけど、アメリカだと社会そのものに影響力を与えたすごい存在のよう。
冒頭の2001年のパロディは、バービーという玩具のインパクトの大きさを明確に表している。時代にはまった新しいカルチャーというものが、逆に時代をつくるというダイナミズムをもつことのすごさをあらわしている。
女児向け玩具に赤ちゃん人形しかなかった時代に登場したバービーは、女性が女性らしくあることの楽しさや喜びを表現することができるという意味で女性を解放したけど、そこには「男性にとっての都合の良い女性像」が不可分に入り込んでいて、現在においては逆にフェミニズムを後退させたという要素もあり、功罪を抱え込んだ複雑な存在である、というような面白くも複雑な問題があることが、この映画観るだけでよく分かる。
でも本当にハリウッドって面白いなあ、と思うのが、バービーのメーカーであるマテル社までも散々にこき下ろした脚本であるということ。この作品は男性の愚かさ、滑稽さ、愚劣さを女性視点で徹底的に糾弾しているけど、そのためにはマテル社を悪者(よくいってマヌケ)にするしかない。でも日本だったら、普通そんなことはできない。
たとえば仮面ライダーをこの映画のようなやり方でメタ的に扱った作品(すごい面白そうな映画になりそう…)を作ろうとしても、表立ってバンダイを批判したり馬鹿にしたストーリーには絶対できないだろう(だから日本では象徴的に真のメッセージを隠してストーリーを作る手法が発達したのだと思うが…)。
最後、バービーが人間として社会で活躍する、というオチになったのもとても良かった。
ところで、アメリカでは「バービー」と「オッペンハイマー」が同時公開ということだけど、日本での「オッペンハイマー」の公開はいつになるのだろう?
問題になることを恐れて公開日が決まらないということなんだったら、そういう考え方そのものが映画文化を衰退させている気がする。映画が社会的議論の中心になるチャンスを逃すというのは、あくまで映画はエンターテイメントにすぎなくて、その範疇を出るべきでは無い、といわれているようだ。
マテル社の全員=男=社員の間抜けさや自虐的ユーモアに笑えました。全ての分野において、ではないのでしょうが、こういった風通しの良さが日本にあればどんなにいいだろうと思います。