「作品は3・5。良かった。だけど今はお灸を据えたく1にします。」バービー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
作品は3・5。良かった。だけど今はお灸を据えたく1にします。
世界中で愛される“バービー人形”を映画化。
アニメや人形を動かすとかではなく、実写で!
下手すりゃ世界中のファンや女の子の夢をぶち壊しかねないが、それを今年を代表するメガヒットへ。
暫定1位ヒットの『マリオ』を抜きそうな勢い。女性監督作としてもワーナー作品としても記録更新しそう。
批評も良く、オスカーノミネートを期待する声も…。
バービーってこんなに人気なの…!?
全く遊んだ事のない男の私にゃ驚き。
まあ、『マリオ』に興味ない人が『マリオ』のヒットに驚いているのと同じか。
観てまず思ったのは、こりゃ確かにアメリカ人が好きそう。
とにかく底抜けに明るく、楽しく、ハッピー。
笑いやパロディーもいっぱい。OPの『2001年宇宙の旅』ネタにはウケた。類人猿とモノリスの遭遇ではなく、女の子とバービーの遭遇!?
ピンク、ピンク、ピンク…のカラフル世界。
歌って、踊って、キャストの魅力。
ある意味おバカムービーでもある。
でも、ずっとノーテンキのままだったら勘弁だった。『マンマ・ミーア!』みたいに。
パッと見のイメージから想像付かぬほど最後は真面目なテーマも。
『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』と連続ホームラン中のグレタ・ガーウィグが監督。ただのファンタジー・コメディになる訳ないわな。
“バービーランド”で毎日ハッピーに暮らすバービー。
毎朝起きて、他のバービーにスマイル挨拶。
水の出ないシャワーを浴びて、飲食もフリ。階段は使わず、フワッと空中浮遊。(ここら辺、人形で遊んでるイメージ)
ピンクのオシャレをして、ピンクの愛車に乗って、ピンクの街に繰り出す。
今日はビーチでケン同士が喧嘩。あ、勿論、ハッピー喧嘩。
夜はパーティー。昨日も今日も明日も。
全てが完璧。これからもずっと。
異変なんて絶対起こらない!
ある日突然、ネガティブ思考が。
つま先立ちが基本だったのに、急にベタ足に。ギャ~!!
空中浮遊も出来なくなった。
ミュージカル歌詞もメンヘラ調に。
一体どうしちゃったの、アタシ~!?
おかしな事はおかしなバービーに聞く。
人間世界で散々遊ばれ、ちょっとヘンになったバービー。曰く、
人間世界での持ち主に問題が。
解決するには人間世界へ。
いえ、行かない。
いや、行くの!
皆に見送られて出発。ひょっこりケンも同乗。
海を越え、山を越え、ロケットにも乗って。
辿り着いた人間世界=リアルワールドは…
バービーランドとは何もかも違う。
ピンクのオシャレがじろじろ見られる。
セクハラ発言連発。セクハラ男を思わずパンチ。逮捕。
買い物したらお金を払う。お金って? また逮捕。
工事現場はガールズではなく男連中ばかり。
ここでは会社も大統領も男。
バービーランドは女性社会。大統領だって黒人女性。(←現実のアメリカでは絶対あり得ない)
そんな中やっと持ち主を探す。が、その女の子サーシャはバービー人形は時代遅れと毛嫌い。
問題は母親だった。バービー人形を生み出したマテル社で働くグロリアの精神不安定がバービーに伝染。
カルチャーショックのバービー…。
一方のケンは男社会のリアルワールドに感化。バービーランドに戻って男性優位にしようとする。
バービーがバービーランドから逃げ出した! マテル社の社長らは大慌て。バービーを捕まえろ!
バービーもバービーランドへ。心配するグロリアと渋々サーシャも。
ところが戻ってきたバービーランドは、ケンによってすっかり男性優位に。
バービーランド始まって以来の危機にどうなる…?
世界広しと言えど今現在、バービーを演じられるのはマーゴット・ロビーだけっていうくらい魅力大爆発。
お人形さんそのまんまのスタイルの良さ。ピンクの衣装も難なく着こなす。
クルクルクルクル、キュートなリアクション。歌も歌って、踊って。
でも、そこは若手実力派の一人。ただ可愛いだけじゃない。
序盤のお人形さん演技。一見キュートでハッピースマイルだが、何処か中身空っぽ。人間世界に来てからは感情様々。終盤は心や情が籠った演技。その演じ分けはさすがのもの。
だけどやっぱりマーゴットが可愛い。これだけでも点数上げちゃいたいくらい。
ライアン・ゴズリングも注目。シリアスやクールやロマンチックな役などお手のもののライアンが魅せる、こんなにあったのかコメディセンス!
序盤の肉体美とスマイルだけの空っぽ男。人間世界に感化されてからは俺様。こちらも見事な演じ分け。
ピンクカラーの美術や衣装の数々は印象抜群。ただカラフルだけじゃなく、それらにもセンスを感じる。
初のエンタメ作品であり、夏の話題作であり、絶対コケられない題材を昇華させたガーウィグの手腕。
この愛らしい人形を通して描いたのは楽しさや面白さや可愛さだけじゃなく、
バービーランドには様々な人種や職種のバービーやケンが。
女性世界のバービーランド。男世界のリアルワールド。その両世界へ皮肉やメッセージ。
そして、自分らしさ。
自立や個々の意志、ジェンダーレスや多様性…。
ディズニーのみならず昨今のハリウッドの必須要素てんこ盛り。
でも、あの人形からここまでテーマを膨らまし、しっかり伝える。訴える。
でも、アメリカでの社会現象級のメガヒットはちょっと驚き。
エンタメ性とメッセージ性を両立させた出来映えは見事だが、どれも本作だけの目新しさっていうほどではなく、昨今あれやこれやで描かれている事ばかり。
面白かったのは面白かった。楽しかったのは楽しかった。良かったのは良かった。
が、自分的には今年のBEST級ってほどではなく…。
“定番”な感じも見受けられた。
最後に例の騒動について。
スタッフやキャスト、作品に落ち度はない。
悪ノリしたファンとそれに便乗したワーナーに否がある。
『オッペンハイマー』も気の毒。完全な巻き込まれ事故。クリストファー・ノーラン監督作でありながら未だ日本公開未定。題材もさることながらこの騒動でまた日本公開が険しくなったかな…? とっても見たいんだけど。
原爆とコラボしてアートやエンタメにしたのは浅はか過ぎる。
やはりアメリカ人は他国の歴史に干渉ナシの無知と思われても仕方ない。
もしホロコーストや911で同じく揶揄されたら…?
アメリカは猛抗議するだろう。そんな国。
そもそも日本ではこの事をニュースや政治でさほど問題にしないのも問題。だから舐められる。
広島や長崎で毎年行われている慰霊や終戦の日はただの形式だけじゃない。
原爆で何十万人も死んだ。戦争で罪もない国民が犠牲になった。
それを忘れてはいけない。軽んじてはならない。
一際その事を思い知らされた騒動と今夏。
作品自体は3・5。(4はいかないかな…)
でもお灸を据えたい意味も込めて、今は1。
いずれ再見してほとぼり冷めたら3・5に修正します。
近大さんの作品レビューは読み込み納得、細部も押さえてさすがの深さです!
バービー好きだったので楽しみにしてましたが、Babbenheimerでかなり落胆し見るの辞めようと思いました。でも見たら楽しく頭よく(少しバカになって)笑えました。色んな意味でアメリカ的な映画でした。