「助けられるなら」夜明けのすべて sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
助けられるなら
パニック障害は何度も聞いたことがあったが、PMSは今回初めて耳にした。
改めて世の中には様々な形の障害があるのだと認識させられた。
これらは日常生活に支障をきたすために障害と呼ばれてしまうのだろうが、これからはひとつの個性として社会全体が受け入れられる土壌が必要なのではないかと感じた。
だいぶ以前から時代は多様性を認める社会を要求している。
PMSと診断された藤沢は、生理の周期によってどうしてもイライラをコントロール出来ずに感情を爆発させてしまう。
しかし彼女は普段はとても謙虚で気配りの出来る人間だ。
だからこそ彼女は心に障害を抱えてしまったのかもしれないと考えてしまった。
彼女は仕事を転々としながら、移動式のプラネタリウムなどを企画する小さな町工場で働くことになる。
どうやらこの工場の社長である栗田は、様々な問題で社会生活に支障をきたした人を積極的に雇っているようだ。
後に彼自身も弟を自殺で亡くしてグリーフケアに参加していることが分かる。
藤沢は同僚の山添のちょっとした態度に我慢が出来ずにイライラを爆発させてしまう。
確かにぶっきらぼうな山添にも問題はあるが、彼もまたパニック障害と診断され、この工場に転職したことが分かる。
初めはお互いに印象の良くなかった二人だが、次第に心を惹かれるようになっていく。
この映画が伝えるのは、人は分かり合えないかもしれないが、今目の前にいる相手と助け合うことは出来るということだ。
今の時代はあまりにも人の生き方が多様化したために、一概にこれといってすべてを括ることが出来ない。
パニック障害やPMSも、人によって症状は様々だ。
観ているこちら側は藤沢がPMSで、山添がパニック障害であることを知っているから彼らの感情に寄り添うことが出来る。
しかし社会全体で見ず知らずの人がどのような事情を抱えているかを完全に包括することは不可能だ。
が、今身近にいる人間を助けることは誰にでも出来る。
これからの時代により求められているのは、自分がどうしたいかよりも、いかに誰かの助けとなれるかなのだろう。
藤沢と山添の互いを助け合う関係もとても微笑ましかった。
おそらくこれは恋愛感情ではないのだろう。
とにかく優しい世界を描いた作品で、観終わった後に心がとても暖かくなった。
今の時代にはこのような作品が必要だ。
この映画の中で決して彼らの抱えている問題が解決するわけではないが、それでも彼らはひとつひとつの出会いに感謝しながら、すべてを受け入れ前に進んでいく。
夜明け前が一番暗いという言葉がとても心に響いた。
いつ夜が明けるのかは分からなくても、闇の後には必ず光が射す。
エンドロールもほのぼのとしてとても心が癒やされた。