「自分でも信じられないくらい泣けた」夜明けのすべて sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
自分でも信じられないくらい泣けた
最初に泣いてしまったのは、ずっとカーディガン姿だった山添が栗田科学というジャンパーを羽織った場面。
そして、涙が止まらなくなったのは、渋川清彦演じる山添の元上司が、山添の言葉を聞いて顔を歪ませるカフェでの場面。元部下が自分の居場所を見つけたことを泣いて喜んでくれる元上司って…。
自分でも「疲れてたんかなぁ」とも思うが、信じられないくらい泣けた。
「ケアすることはケアされること」とは言われるが、映画に登場する誰もが、そんな風に大上段に構えて誰かをケアしてはいない。
むしろ、ケアしたかったのに、それに気がつけずに今も悔いを残している人たちが登場する。
発作に苦しむ藤沢や山添に対して、彼らの振る舞い方の自然さに救われる。
そして、藤沢や山添を面倒くさがる奴らも、勝手にアウティングする輩も出てこないことがありがたい。実際の世界の中には、そうした行為をする者も山ほどいるだろうが、そんな行動はいずれ消え去るべきもので、この映画の中では雑音にしかならないので必要ない。そのきっぱりとした演出がいい。
栗田科学のような会社のあり方は、本当に理想的だなぁとしみじみ思うが、それも、弟の自死を経験している社長の「日常的に人を大切にする振る舞い」が社員をそうさせているのだろう。
(追記:2回目を鑑賞して、栗田科学には「人にやさしく 自分にもやさしく」というポスターが貼られていることも確認。社訓も「想像する心 創造する力」で、なるほどと思わされる)
それにつけても、「知る」ことの大事さもよく伝わってきた。藤沢も山添も、互いの病気について知ったことで、わずかでも相手を助けられるようになり、ひいては、それぞれ自分の病気とも向き合えるようになったのだと思う。
山添が自転車を漕ぎ出す場面、そして、日陰の登り坂で自転車を降りて押す場面を見て、自分の病気との向き合い方を身につけてきたんだなあと感慨深かった。(ママチャリに追い抜かされても穏やかな山添、ナイス!)
話は少し変わるが、今回は、妻と一緒に鑑賞して、同じ場面でも、こんなに捉え方が違うのかという経験をした。
一つ目は、山添の部屋で、藤沢が残ったポテチをガァーっと口を開けて流し込むカット。
自分は「男の部屋でもこうした気を使わない振る舞いができる関係性だよっていう表現かな?」という捉え方をしたのだが、妻は「あぁ、あんなに食欲が抑えられないって、もうすぐPMSが発症するなぁ…」と思って見ていたらしい。
二つ目は、藤沢が、日曜日に車を洗いに出社するカット。
自分は「前回の発作の時に、山添に教えられた事が、コーピングレパートリーの一つとして、ちゃんと身についたんじゃん! これって、メンタルクリニックで否定されてた認知行動療法じゃないの?」などと思っていたのだが、妻に言わせると「生理が来る時って、急に色んな物をきれいにしたくなったりするんだよ。お風呂磨きしたくなったりさ。生理が来るとぐったりして動けなくなっちゃうから、本能的にそうなってるからかもしれないけど。それにね、ケアすることでケアされるって、物に対してもそうだからね。丁寧に洗濯物を畳んだり、整頓したりって、相手が物だけど、自分もケアされるんだから」とのこと。
…何も言い返せませんでした。
いやぁ、自分の知らないことを知るってやっぱり大事。
あと、夜明けをテーマにしているだけあって、光と陰影の対比表現はとても素晴らしかった。
「あのプラネタリウムの外にいる山添の顔の陰影がさ、太陽に照らされている地球や月みたいでさぁ…」「あの自転車を降りた坂道は日陰になっていてさ」などと熱く語っていたら、妻に「よくそんなこと考えながら観ていて、号泣できるねぇ」と呆れられてしまった。
けど、自転車に乗る山添の顔に光が当たったり、時折陰になったりっていうのが、山添の人生を表しているようで、そういう所もよかったのだから仕方がない。
けど、そういう所を語り過ぎるのがうざいのだろうなということもよくわかる。ごめんなさい。
最後に出演者について。
藤沢の友人役に、ドラマ「silent」で、主人公の紬の友人役を演じた藤間爽子、山添の恋人役に、「朝がくるとむなしくなる」の芋生悠、自助グループのリーダー役に、「さよならほやマン」の漫画家役の呉城久美など、以前に観た作品で好きだった役者が次々と出演していたのもうれしかった。
現時点で、本年度ベスト作品。
(ホントは、2回目は、コメンタリーを聞きたかったのだが、なぜかUDCASTがちゃんと起動せず、聞けなかった。同じ様な人いますか? 原因不明で困ってます…)
sow_miyaさま
共感とコメント、ありがとうございました。フォローさせていただきました。
今年映画館で観逃して、一番後悔していた作品。映画賞受賞のおかげで、11月に映画館で2回鑑賞できました。
感動ポイントは、ほぼレビューに書かれているのですが…
栗田科学の事務所の壁にある、2ヶ月分のカレンダー。映画が公開された2月の時点では、3月のプラネタリウムのイベントは「未来」の話だったんだなぁ、とちょっとうれしくなりました。
何作かレビューを読ませていただきました。『ぼくが生きてる、ふたつの世界』のレビューも、楽しみにしています。
ナイスレビュー感謝です!^ ^
奥様の視点は貴重なお話です。
やっぱりいろんな人の感想を聞くのは、映画を観るのと同じ価値があるな〜と感じる今日この頃です。
奥様にも感謝!m(_ _)m
萌音ちゃんは当然、最高なのですが、
北斗くんも素晴らしかったですね。
光石さんは言わずもがな。脇を支えてくれた方々、みんなが最高でした。(T ^ T)
sow_miyaさん、共感&コメントありがとうございます。
ポテチの件は、私もsow_miyaさんと同じ解釈でした。奥様のような視点もあるのだなと、新たな気付きがありました。
あのシーンもそうですが、藤沢さんは歩きながらミカンの皮を剥いて食べたりもしていたので何となく、食欲には素直な方なのかな? と思って観ていました。
レビュー読ませていただきました。勉強になりました。
ドキュメントを見ているような、とても大好きな映画でした。
私も妻と一緒に観に行きましたが、私の妻は症状が軽いのでPMSの状況が理解出来ず、そういう女性を見て嫌な感情を持つことがあったと聞いて、それはとても残酷なことだなと思いました。
全ては相手を理解しようとする気持ちですね。
共感ありがとうございます。
栗田科学やアフターファイブの控室だったからトラブルになりませんでしたが、それはある程度の経験則から、自分を置く環境に注意していたからと思いました。理解ある周囲が居れば、短時間で良い方向に迎えるんでしょうけどね。
はじめまして、カフェのシーンで号泣したのは自分だけではなくて安心しました笑
全体を通して優しく丁寧に作られているなと思って観ていましたが、女性面が見て気付く場所があるのだと知り、まだまだ奥が深いなと思いながらレビュー読ませていただきました。新しい気付きをありがとうございます!
見に行って来ました。おすすめ通り、とてもよかったです。
栗田科学のジャンパーの件は気づきませんでしたが、他の点はなるほどなあ、などと思いながら、このレビューを読みました。
私は藤沢さんの見舞いに言った時に、会いもせずに、携帯などをドアにぶら下げて帰ったシーンも心に残りました。私なら顔を見て帰ろうとするだろうなあ、と自分の思いやりのなさに気がつきました。
コメントありがとうございました。奥様の視点、とても素晴らしいですね。参考になりました。それにしても御夫婦でこの映画を観にいくってとってもうらやましいです。
今晩は。いつもありがとうございます。
拝読しましたが、素晴らしいレビューですね。的確で、且つ奥様の意見も盛り込んだレビューには感服しました。
今作は、心を病んだ人たちの映画かな、と思って躊躇していたのですが(この時点で、ダメダメなオイラ・・。)登場する人物が皆心に何らかの傷を負いながらも、笑顔を絶やさずにけれども一生懸命に生きる姿や、心に傷を負った人への優しい態度が、沁みてしまいました。(と言うか、涙腺が緩んでしまって、困りました・・。)
普段、会社でオラオラ系で振舞っている私に取っては、深く考察及び反省させられる映画でした。
とても良い映画でしたね。では。返信は不要ですよ。