「自由とは名ばかりの時代を生きる人々への応援歌」大いなる自由 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
自由とは名ばかりの時代を生きる人々への応援歌
公衆トイレで相手を物色していた主人公のハンスが、それ故に何度も入獄と出獄を繰り返している。それとは、戦後のドイツで施行されていた男性同性愛を罪とする刑法175条のこと。まずは、そんな法律がドイツに存在していたことに驚く。第二次大戦直後の1945年には、違反者はユダヤ人と同じくナチスの捕虜収容所に送られ、さらに、ハンスのように刑務所へと移送されのが常だった。でも、多くが収容所で命を落としていたことを考えると、ハンスには強い生命力と意志があったということになる。
本作は、何度刑務所に収監されようが、自由が来る日を信じて厳しい獄中生活を耐え抜くハンスと、別の罪で懲役に服しているヴィクトールのまるで相容れない関係が、徐々に接近し、友情が愛情へと変化していくプロセスを、1968年→1945年→1957年→1968年と、3つの時代を前後しながら丹念に記録していく。時代毎に微妙に変化するハンスのルックスが時の移ろいを表現している点を見逃して欲しくない。
やがて訪れる衝撃の結末は、自由な時代とは名ばかりの、たった今の現実を我々に突き付けて来て、息苦しくなるほどだ。
これは、差別の中で生き抜くことの過酷さと、依然変わらぬ現状を告発した作品であると同時に、愛と希望についての物語でもある。劇中、刑務所の窓からアポロ11号が到達した月を眩しそうに眺めるハンスの眼差しに、そのことが象徴されている。
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