「歴代主人公大集合!にも拘らず、魅力に乏しい凡作」バイオハザード デスアイランド 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
歴代主人公大集合!にも拘らず、魅力に乏しい凡作
【イントロダクション】
カプコンが誇る大ヒットゲームシリーズ『バイオハザード』を基にしたフルCG作品。
ゲーム版の歴代主人公が一堂に会し、アルカトラズ島を舞台に強大な敵に挑む。時系列としてはゲームタイトルの『6』と『7』の間に位置し、映像作品としては『ヴェンデッタ』(2017)の世界(2014年)から1年後を舞台としている。
監督は、実写版『海猿』シリーズ(2004、06、10、12)の羽住英一郎。脚本は『ヴェンデッタ』に引き続き、小説家、漫画原作者の深見真。
【ストーリー】
1998年。ラクーンシティで発生したT-ウイルスによる集団ゾンビ化事件による街の閉鎖作業の為、アンブレラ社の下請け民間軍事会社に所属するディラン・ブレイクは、仲間のJJらと共に現地に派遣される。しかし、仲間の隊員達は次々と感染者に噛まれて負傷し、ディラン達は街に取り残されてしまう。上層部はディランとJJに感染者となった仲間達を処分するよう命じ、処分が完了するまで救助は行わないと告げる。
JJは任務を遂行すべく、ゾンビ化した仲間達に機関銃を連射する。そんな中、ディランは目の前で繰り広げられる地獄の光景に深い絶望感を抱いていた。
時は現代に移り、ニューヨークの事件から1年後の2015年。国家機密を国外に売ろうとする機械工学の研究者アントニオ・テイラーが拉致されてしまう。アメリカ合衆国大統領直轄組織「DOS」のエージェント、レオン・S・ケネディは、テイラーを拉致した武装集団を追跡中、かつてアリアスの部下として活動していたマリア・ゴメスの襲撃を受け、武装集団を取り逃してしまう。
一方、アメリカ国防総省では謎の不正アクセスがあり、これまでバイオハザード事件に関わった重要人物達のデータが盗まれていた。
時を同じくして、サンフランシスコでは感染経路不明のゾンビ化事件が発生。その事件のゾンビからはT-ウイルスの改良型が検出され、対バイオテロ組織「BSAA」のクリス・レッドフィールドとジル・バレンタイン、アドバイザーのレベッカ・チェンバースが調査を開始する。
一方、NGO団体「テラセイブ」に所属するクリスの妹、クレア・レッドフィールドは、浜に漂着したシャチの遺体を調査していた。シャチには巨大な噛み傷が残されており、傷口からは同じくT-ウイルスの改良型が検出された。
クレアから話を聞いたクリスとジルは、事件の裏に繋がりがあると睨む。レベッカの調査により、ゾンビ化事件の感染者は全員が近日中にアルカトラズ島を訪れていた事が判明する。
事件の謎を解明すべく、クリス、クレア、ジルの3人は観光客を装ってアルカトラズ島を訪れる。しかし、突如として他の観光客が原因不明のゾンビ化を果たして襲い掛かってくる。
一方、レオンもまたテイラーの行方を追ってアルカトラズ島に潜入していた。
【感想】
作中の経過時間は1年だが、現実では前作から6年の月日が経過している。その間にも、CG技術が目覚ましい進歩を遂げ、最早実写と遜色ないレベルにまで来ている事がオープニングシーンの数秒だけでも分かるから凄い。
歴代主人公が一堂に会する本作は、謂わばバイオハザード版『アベンジャーズ』。冒頭のレオンとマリアによるチェイスシーンの気合いの入り具合、ゲームシリーズ『5』でウェスカーから洗脳を受けた事を悔いているジル、『6』でクリスが後継者として育て上げたかったピアーズの名前を挙げたりと、ゲームシリーズの内容を知っているとより一層楽しめる要素も多い。
クリス達がアルカトラズ島を訪れ、ゾンビパンデミックに遭遇するまでのテンポも良い。
しかし、そうした前半部の出来の良さで稼いだ貯金を、後半部ではひたすらに消費していくばかりの結果になってしまったのは残念だ。ヴィランであるディランの動機は抽象的で共感しづらく、クリス達を狙う意図も回りくどくテンポが悪い。両生型の改良リッカー等、魅力的な新クリーチャーが登場するも、大した出番もなく退場してしまう。
ラスボスとなる融合型ディラン(ディランが改良型T-ウイルスを使い、メガロドンB.O.W.と融合した姿)も、せっかく鮫と融合を果たすというこれまでにない組み合わせのクリーチャーとなったのに、図体ばかりデカく動きが鈍重で魅力に乏しい。唯一の取り柄は、ゲームシリーズでお馴染みのロケットランチャーや、『RE:3』でジルがネメシス戦で用いたプラズマライフルを彷彿とさせる武器の一撃にも耐えうるという耐久力の高さだけであり、デザインも鮫というよりネメシスの劣化版亜種にしか見えず、美しくない。せっかくの歴代主人公大集合のお祭り映画なのだから、ラスボスにもそれ相応の魅力が必要不可欠だったと思う。
特に、せっかく鮫と融合して水陸両用の肉体を手に入れたのだから、水中と陸の両方から攻撃を仕掛け、クリス達を苦戦させてほしかった。そして、そんな強敵を相手に、クリス達は互いに窮地を潜り抜けてきた仲間の強さを知っているからこその連携プレーを見せてほしかった。最初からあそこまで巨大化させずとも、クリス達のコンビネーションプレイの前に回復が追い付かず、ダメージを補修しようとT-ウイルスが暴走し、次第に巨大化していくというような内容ではダメだったのだろうか?戦闘による形態変化も、シリーズお馴染みの醍醐味ではないか(予算?泣けるぜ)。
5人でハンドガンを構える姿は、まんま『アベンジャーズ』(2012)でアイアンマンやキャプテン・アメリカがチタウリの大群を前に団結するカタルシスを演出したかったのだろうが、敵があそこまで巨大とあっては滑稽にしか映らない。せめて、ディランと共に大量の改良型リッカーが湧き出てくる等ならば、ハンドガンで対処しようとする姿にも説得力が生まれたのだが。
前作から引き続き登場したマリアの活躍も、取ってつけたような印象しかなく、レオンとの対決の決着も味気ない。というか、レオンはあれだけ攻撃を受けたのだから、多少の流血くらいはしていても良さそうだが。ゲームでさえ、近年の作品は負傷すればちゃんと傷を負う表現が成されているというのに。
前作でメインヒロインを務めたからか、レベッカの活躍は本作では控えめ。しかし、島に上陸する際に自分だけ防護マスクをしておらず、護衛を務める他の隊員達が全員メガロドンB.O.W.の餌食となって1人になるというのは、流石に都合が良すぎやしないか。せっかく、地下通路でジルと合流する件があるのだから、1人2人は護衛の隊員を残しておき、そこで改良型リッカーに襲われて隊員達が犠牲になる中、ジルがリッカー達を相手取ってレベッカをクリス達の救出に向かわせるといった展開があっても良かった、というか、その方が自然だと思うのだが。
ラスト、朝日の差し込むアルカトラズ島で救助のヘリに向かっていく5人の後ろ姿は、ゲームクリア感があり良かったのだが、前述したラスボス戦の魅力の無さやストーリー的な盛り上がりの弱さから、カタルシスには乏しかった。
【総評】
歴代主人公大集合という魅力的なルックに対して、ストーリーやヴィランには魅力に乏しく、結果的に主人公達の無駄遣いとなってしまったように思う。
ツッコミ所も『ヴェンデッタ』程のネタに出来るレベルの荒唐無稽さには達しておらず、例えるなら「高級食材を揃えて調理したにも拘らず、味のしない料理」といった所だろうか。残念だ。