「愛する人にどのように記憶されたいか。その切なさと苦しみの物語。」aftersun アフターサン あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
愛する人にどのように記憶されたいか。その切なさと苦しみの物語。
31歳の誕生日を迎えようとしている若い父親カラムと、11歳の娘ソフィがトルコのホテルでバカンスを過ごす。
ストーリーはそれだけだ。
ただし、この中に父親と娘のそれぞれの愛情の違いや、その溝を埋めようとするあがきや苦しみといったものが凝縮されている。
予告編の「あなたを知るには幼すぎた」というコピーがすべてを表現している。
本作は構造が凝っている。
1.【現在】31歳になったソフィが、20年前のことを思い出している。
2.【過去】カラムとソフィがバカンスを過ごす時間
3.【映像】バカンス中に撮影した映像
4.【心象風景】31歳のソフィが、31歳の父カラムと同じ空間にいる
上記の4種の映像が混在する。基本的には2.の時間軸で展開していく。
3.の映像はカラムのハンディカムビデオで撮るのだが、そこには楽し気なスナップ的なショットばかりが残っている。2.のバカンスを過ごす時間軸でのやりとりは楽しいことばかりではないのだ。そこは注意深く観ないとよくわからないと思う。
製作費は不明、興行収入は15億円。思ったほど売れなかったか。
コロナ禍の影響は大きいだろう。
皮肉なことに、本作はコロナ禍があったからこそ意味を持つ作品でもある。
それは本作が人と人の触れ合いに関する物語だからだ。
タイトルにもあるアフターサンとは日焼け後のケアアイテムだ。作中で、カラムがソフィにクリームを塗るシーンが何度か出てくる。他人にクリームを塗らせるというのは、ある程度の親しい間柄になるだろう。
コロナ禍において、人と人の触れ合いは自粛されがちだった。
延々と続くエモーショナルな映像は、ビジュアルで観客をひきつける。
観客は映像を眺めるだけでなく、その中に意味を見出さなくてはならない。
繊細で挑戦的な作品だったと思う。